高齢者の生きがいをつくること。高齢化社会の今、高齢者の生きがいづくりがとても大切になります。
自分の親が高齢者として人生の終盤を過ごす時。もしくは自身が高齢者となった時。
ようやく持てた自由な時間をどのように過ごし、何を「生きがい」としているでしょうか。
現在の日本の人口推移からみると、50年後には国民の約3人に1人が65歳以上、4人に1人が75歳以上という超高齢化社会をむかえることが予想されています。
また平均寿命はさらに伸びて、男性でおよそ85歳、女性はなんと91歳と、ついに寿命90年の大台に乗ることが見込まれています。(『令和4年版高齢社会白書』より)
このように高齢化が進む日本において「高齢者の生きがい」を考えることは、自身の為のみならず、多くの人々の暮らしや幸福、ひいては国の豊かさに直結するものであると考えます。
誰しも平等に訪れる「老い」。
人生の終盤をそれぞれが望む形で迎え、納得して終えられるよう、「高齢者の生きがい創造」について、内閣府の調査を参考にみていきます。
統計からわかる現在の高齢者の「生きがい」とは
令和3年(2021年)12月に行われた内閣府による生活調査では、「高齢者の生きがい」について以下のような結果が得られています。
●「生きがい(喜びや楽しみ)を感じている」という人は全体の約7割
(有効回答 :65 歳以上の高齢者2,049人。内閣府高齢社会白書より引用)
図のように、「生きがいを感じる程度」についての質問では、生きがいを「十分感じている」が 全体で22.9%、「多少感じている」が 49.4%の合計72.3%。つまり約7割の高齢者が現状「何らかの生きがいを感じている」という結果となりました。
この数字を多いとみるか少ないとみるかは個人の感覚な部分ではありますが、普段介護の関係やお付き合いなどでお悩みの多い高齢者の方と接している身としては、想像以上に良い結果であるというのが第一印象でした。
しかし注視してみると、生きがいを「十分感じている」が約2割しかみられず、生きがいを「あまり感じていない/全く感じていない」を合わせた数も2割程度存在することから、現状を楽観視できる状態でもないことが分かりました。
高齢者の「生きがい」の具体的な中身とは?
調査によると、高齢者が考える自身の「生きがい」とは以下のようなものでした。
↑『内閣府 高齢者の地域社会への参加に関する意識調査』より作成
この回答から、高齢者にとって「家族との団欒」が男女とも非常に重要度が高いことが分かります。
その他、男性では「仕事や運動に打ち込んでいる時」、女性では「友人らとのおしゃべりや美味しい食事」がそれぞれ大きく生きがいに繋がっていることが分かりました。
このように性別で意識に差がある項目もありとても興味深いですが、それぞれを要素ごとにまとめて言い換えると、高齢者が感じている「生きがい」とは、
1、他者とのかかわり合いがあること
→家族や友人とのコミュニケーションによる幸福感や安心感
2、自身が熱中できる物事への取り組み
→趣味や運動、食事など自分の好きなことを行う楽しさ
3、普段の日常とは違う世界を体験すること
→旅行や勉強、テレビなど新しいことに出会える喜び
4、自身の役割や価値を再認識できること
→仕事やボランティアなど社会的な活動による自己の肯定化
大きく分けてこれらの4つに分類することができました。
また調査では興味深いことに、「性別や未既婚、同居者の有無、年齢階層や就業の有無など」と「生きがいを感じること」の間には統計的に相関が無いということが確認されました。
つまり「結婚経験や年齢、子どもや仕事の有無などは生きがいに有意に影響しない」ということです。
参考『令和4年度 高齢者の健康に関する調査 (cao.go.jp)』
ですので、もしも家族がいなくても、どれだけ歳を取っていても、気のおけない友人がいたり、打ち込める趣味があったり、健康が維持できて社会活動に参加できるならば「生きがいは生まれる/感じられる」ということが示されました。
高齢者の「生きがい」を具体的に創造していくための4つの要素
上記の調査から、高齢者が生きがいを感じながら日々を過ごすために大切な「4つの要素」が見えてきました。
ここでは更にそれぞれを深掘りし、本人や周りがどのように働きかければ「生きがい」を感じられる健やかな暮らしを送れるか、そのヒントをお伝えしていきます。
⚫️生きがいの創造に大切な4つの要素●
1. 他者とのかかわり合いを増やすこと
家族や友人らとコミュニケーションを取れるという事は、高齢者の生きがいを考える際、非常に大事な要素となることが分かりました。
特にお孫さんに関われるということは、高齢者にとって大きな喜びとなるようです。
ですので、たとえ離れていても、定期的に連絡を取ったり、写真を送ったりなど、良い関係を保てるような配慮の継続が望まれます。
更に、そういった親しい相手のみならず、ご近所さんやスーパーの店員さんなど「短い会話ができる相手がいる」ということも「生きがいを感じること」に関して充分良い影響があるようです。身の周りに高齢者がおられる方は、ご家族以外にもぜひ積極的に声をかけて頂きたいと思います。
また、近年では『ペットと過ごす』ということも高齢者にとって大きな生きがいとなり、ひいては健康維持にも役立つことが分かっています。今やペットも大事な家族の一員。機会があればかわいい動物と一緒過ごせるよう働きかけを行なってみてください。
2、好きなことに遠慮せず取り組む
「運動や趣味など、好きなことに熱中できる」ということも、大きな生きがいとなることが分かりました。
また、同調査では「最も力を入れた活動に初めて参加した時期は?」という設問があり、一番多かった回答は『退職後』。次点は『子どもの自立後』という答えでした。
「人は歳をとっても新しいことを始められ、それに熱中できる」ということではないでしょうか。
更に続いて「それに参加したきっかけは?」という設問で一番多かった回答は、『家族や知人に勧められたから』。(次点は『自身の関心から』『自治体や町内会でのよびかけによる』と続きます。)
ここから分かることは、「初めはさほど気が乗らなくても、結果的にとても熱中するものに出会える可能性がある」ということです。
ですので、今熱中できるものが無い方も、なるべく心をオープンに。そして周りの方も、高齢者ご本人の好みそうな物事があれば積極的に声をかけてほしいと思います。
3、普段とは違った新たな世界を体験する
旅行はもちろん、テレビやラジオなどを通して「普段と違う新しい情報や感覚に触れられる」ということも生きがいに繋がります。
「学び」を好む方も多いため、すでに多くの自治体には『シニア大学』という高齢者向けの学びの環境が整えられています。応募者数が定員をこえたら抽選にはなりますが、ぜひ進んでご活用ください。
また近年ではインターネットの普及に伴い、更に手軽に新たな世界の体験ができるようになりました。
調査では、インターネットを使って生活している高齢者は、普段それらを使わない高齢者に比べて3倍も「生きがい」を感じて生きていることが分かっています。
参考『令和4年版高齢社会白書(全体版) (cao.go.jp)』
インターネットやデジタル機器が使えれば、他者との交流機会が増えたり、世界中の様々な映像番組を観られたり、お買い物が楽になったり、その際多くのポイントが得られる(お金として使える)など、心理面や金銭面でもかなりのメリットがあります。
そのため、パソコンやスマートフォンなどの使い方教室に通ってみるのも非常にお勧めです。
4、自身の役割や価値を再認識できる機会を持つ
調査によると、「仕事をリタイアした後も何らかの社会的な役割を担うこと」が高齢者にとって大きな生きがいとなることが分かりました。
欧米では退職後の第二の人生として「ボランティアをする」ということを楽しみに生きる方が多く、特にアメリカでは、高齢化社会を見越して1960年代から「シニアボランティア」の育成や推進のために様々なNPOやインフラが整えられてきました。その場所が彼らの家庭以外の新たな居場所となり、また力を発揮できる場所、他者との交流を行える場所として大切なものとなっているようです。
「高齢者」といえど、様々なノウハウや経験を持った貴重な人材です。それを活かすことができれば、本人の生きがいになることは勿論、社会にとっても大変有り難い存在となるはずです。
積極的に社会活動に参加し、また受け入れる側も間口を広く取って、お互いのwin-winを目指していける社会の構築を望みます。
まとめ
高齢者の生きがいについて、様々な調査項目とその結果を元にみてきました。
老年期を豊かに生きるための色々な要素があげられましたが、それらは配偶者の有無や年齢などの「条件」に左右されるものではなく、個人の気持ちや行動で充分に獲得できるものだということも分かりました。これはとても希望が持てることであると感じます。
いつからでも、人は自分次第で生きがいを感じて生きることができる。
その意識を後押しできるよう、高齢者の周りの人々も積極的に働きかけていただきたいと思います。
ただ、生きがいを感じて生きるためには、大前提として「健康」や「金銭面での余裕」等がある程度存在することも大切な要素であろうと思います。
これらに関して個人でできることには限界もあるため、高齢者に向けた保障制度や医療面など社会的な枠組みの更なる充実も望みたいと思います。
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