その67 愛をこめて免疫を

父ときどき爺

 父が、とうとうコロナウイルスに感染した。

 1月の終わり、お世話になっている高齢者施設から電話がかかってきた。父が居住しているフロアから感染者が出て、その4日後の朝、前日までは元気だった父も熱を出したという。検査をしたら陽性で、居室内で療養することになったという連絡だった。

 こればっかりは、もう仕方ない。連日のニュースでも、高齢者施設での感染が広がっていると話題になっていた時期だった。

 父は発熱のほかに目立った症状はなく、軽い食事もしているという。常駐の看護師さんや介護スタッフの方は、防護服で対応してくださっているようだ。この施設の母体が、総合病院であることも心強い。
 
 と、自分に言い聞かせてみたものの、本音のところは、やはり心配でたまらない。私自身は今のところ感染していないので、体験にもとづいた想像ができないことも不安を募らせた。

 父は、今年96歳になる卯年の年男。福の神も味方につけて、コロナなんかピョン!と乗り越えてくれるだろう。

 この状況になって、あらためて思う。年末年始に父が帰宅したとき、感染対策をしながら家族みんなが元気に過ごすことができたのは、本当にありがたいことだったと。

 それから3日後。父の熱はすっかり下がって、食事もいつも通りできるようになったという連絡をもらった。それでも、決められた療養期間中は居室内だけでの生活がつづく。父のことだから、平熱になった途端、自由に動きたくてうずうずしているだろう。けれど、もう少しの辛抱だ。しっかり回復して、囲碁仲間のみなさんとお手合わせ願える日が来ますように・・・。

 そんな願いが届いたのか、おかげさまで父の療養期間は無事に終わった。けれど、家族の面会はまだできない。感染者だけでなく、施設全体の面会禁止は当分つづくだろう。今も日々、体調を気遣ってくださっている施設の方々には、感謝の言葉しかない。

 そんなわけで、今年はバレンタインデーのチョコレートも、手紙と一緒に郵送した。いつもは「お!バレンタインじゃの。プレゼントしてくれる気持ちがうれしいわい」と笑って受け取ってくれた父。見た目がどんなにおしゃれなチョコレートでも、ひとくちでぱくっと食べてしまう。で、うまいうまいと、また笑う。その顔を見られなかったのは残念だけど、カカオパワーで少しでも免疫力を高めてくれたらうれしい。

 コロナの免疫もつけたであろう父との再会が叶ったら、あらためてチョコレートを手渡そう。愛してますよ、お父さん。

【次回更新 その68】
2023年4月3週目(4月10日~16日)予定

投稿者プロフィール

角田雅子(かくだまさこ)
角田雅子(かくだまさこ)
広島市在住。コピーライター、ラジオ番組の放送作家。広告制作を経てフリーランスに。備えあればと思い立ち、介護食士やホームヘルパーなどの資格を取得。座右の銘は「自分のきげんは自分でとろう」

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