「親の介護が大変」「介護離職にはどんな問題がある?」そんな様々な不安の中、介護離職をしてしまう人の数は少なくありません。それというのも、介護と仕事の両立は難しいからです。
でも、親の介護が原因で自分の職を捨てるのはやめましょう!
この記事では、介護離職の現状から介護離職によって起こる問題、メリット・デメリットなどについてお話しします。 介護と仕事の両立のための国や自治体が行う支援の情報等についても説明しています。
参考にしてくださいね。
親の介護と退職
「家族に介護が必要になった!」介護が始まる時、介護者となる就労者には3つの選択肢があります。
①働きながら介護する=介護と仕事を両立させる
②離職して介護に専念する
③転職して環境を変える
介護離職とは、勤めている会社を介護を理由に退職する②を意味します。
介護離職の現状
厚生労働省の雇用動向調査によると、2020年に離職した人は約727.2万人、そのうち「介護・看護」を理由とする人は約10万人でした。
性別・年代別に「介護・看護離職」の割合をみると、男性は「65歳以上」、女性は「40歳以上」から徐々に高くなっています。
働きながら介護をする人は意外に多い
2018年7月に総務省が公表した「平成29年就業構造基本調査結果」によると、介護をしている人は約628万人。このうち、仕事を持つ人は約346万人で、今や6割近い人が働きながら介護を行っている状況です。
介護離職は中高年層で増加
介護が必要になる年齢はそれぞれ異なりますが、75歳以上になると要介護状態の高齢者の数は増加します。
高齢者本人の意向や財政的な理由で在宅介護を選択した場合、介護をする人は配偶者、あるいは、子どもということになります。しかし配偶者は要介護高齢者と同世代という可能性が高く、子どもが介護を担う場合が少なくありません。
これが、中高年の退職が多くなる原因のひとつです。
介護離職は女性が多いのはなぜ?
下のグラフによると、女性の占める割合は80%以上です。
女性の介護離職がよくみられる背景には、夫婦間でみた場合、収入の少ない女性が介護を担うケースが多いからです。
また、「介護は女性の仕事」という考えが未だに強く残っている事や、「介護は自分がするべき」とする女性の思いも原因のひとつにあります。
しかし、男性にとっても家族の一員が介護を必要とし、また介護をしている状況は、他人事ではありません。ぜひ、家族全員の問題として考えていきたいものです。
介護離職のメリット・デメリット
では、介護離職のメリットとデメリットを見ていきましょう。
メリット
介護離職のメリットは、以下の通りです。
〇介護と仕事の両立による心身の負荷が減少する
〇時間ができ余裕のある介護ができる
介護離職のもっとも大きなメリットは、介護をする人が仕事と介護の板挟みにならなくなることです。
介護に専念できることから、余裕のある対応も可能になります。
被介護者との関係性も親密になり、介護者の満足感につながることもあるようです。
デメリット
介護と仕事の両立が難しくなった際の選択肢である介護離職ですが、メリットよりもデメリットの方が大きいと言われます。
以下、典型的なデメリットを挙げました。
〇会社から得ていた収入がなくなり、一生涯の収入が減る(退職金や年金にも影響する)
〇キャリアが途絶え、再就職が難しくなる
〇社会とのつながりがなくなり、介護者との1対1の関係になってしまいがち
〇離職後の再就職が難しい
※三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「調査実施時期2013年1月」のアンケートによると、経済面の負担が増したと答えた人の割合が最も多くなりました。また、肉体面や精神面についても、負担が増したと答えた人も過半数を超えています。
自分が介護をすることで介護費用を削減できる、という考え方については、支出が減っても収入も減るため、むしろダメージが大きいかもしれません。
さらには介護離職後の再就職について、離職後に再就職できた人の割合は、介護離職者全体の3割ほどという結果がでています。
いったん介護離職をすると、介護をしながら再就職活動をするのが難しかったり、職歴にブランクが空いてしまうことで採用されにくくなったりといった問題が出てくるからです。
また、再就職できたとしても、以前に比べて給料が減ったというケースや、正規雇用を希望していてもパートなどの非正規雇用として働かざるを得ないケースも珍しくありません。
離職前と同じく正社員としての再就職はさらに難しく、収入は離職前より下がるケースも珍しくありません。
※https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/dl/h24_itakuchousa05.pdf
多くの介護離職者が「介護のために」離職した後、離職すれば介護は楽になるだろう、と期待した状況にはならなかったと感じ、また、離職してかえって「負担が増した」という人が5割~7割以上もいたことを考えると、やはり、離職する前にすべきことはないのか、という課題が見えてきます。
「介護離職ゼロ」施策とは?
国や自治体で「介護離職ゼロ」の施策が施行され、経験豊富な従業員が、介護と仕事の両立ができる対策をとっています。
具体的な支援について紹介していきましょう。
介護休業制度
介護休業制度とは、2週間以上に渡って介護を必要とする家族がいる際に、介護するために休暇を取得できる制度です。
同じ事業主に1年以上雇用されていることなどが条件として設けられており、対象家族1人につき3回まで、通算93日まで休暇を取得できます。
この制度は法律で定められているため、会社で介護休業に関する規定を作っていない場合でも拒否できないようになっています。
介護休業を希望する場合は、事業主に申し出る必要があります。もし、そのような状況が想定できる場合は、早めに上司へ報告・相談しておきましょう。
勤務時間の制限
仕事の負担を減らすために、勤務時間を制限する制度もあります。
労働者が請求した場合、1回の請求につき所定外労働と時間外労働で1ヶ月以上1年以内の期間、また深夜業で1ヶ月以上6ヶ月以内の期間において残業を制限できます。
なお、対象外となるケースも存在するため、請求する場合は事前に担当部署に要件を確認しておきましょう。
介護休業給付の支援
介護休業給付とは、介護離職を防ぐために経済的に支援する雇用保険給付です。
家族の介護のために介護休業を取得し、休業中に労働者が受給できる給付金を指します。
正社員だけでなく、契約社員などでも条件を満たせば利用することができるので、会社の担当部署に確認してみてください。
- 雇用保険の被保険者である
- 家族の常時介護が2週間以上必要な状態である
- 職場復帰を前提とした介護休業を取得する
以上の要件を満たせば、最長93日を限度に3回まで支給されるので、要件に該当する場合は利用しましょう。
介護離職する前にできること4つのポイント
介護離職する理由の多くは「仕事と介護の両立が難しい」ことです。しかし、離職をすることのデメリットが多いことは見てきました。そこで、できる限り介護離職をしないでもいいように、介護離職をしないためのヒントを、以下にまとめてみました。
①介護保険制度について理解しておく
介護離職を防ぐには、介護保険制度をうまく活用することが欠かせません。
例えば、地域包括支援センターは、介護が必要になってからも、住み慣れた地域で暮らし続けるためのサポートをしてくれる施設です。各地域に設置されているため、最寄りのセンターを訪ねて相談してみましょう。
また、仕事と介護を両立したいと考えている人は、ケアマネジャーに自分の働き方や介護への関わり方をしっかり伝えたり、職場にケアプランの内容を伝えて働き方を調整し、仕事と介護の両立を検討することも必要です。
職場で家族介護等について相談できる窓口を確認しましょう。
②会社が実施している支援制度について理解しておく
企業では、育児・介護休業法による制度に加え、介護離職者をなくすための独自の支援制度を実施しているところもあります。
内容をしっかりチェックしておき、有効に利用しましょう。
③家族や親族同士で相談しておく
親の介護に直面したとき、家族の間で「介護負担をどうするか」や「お金の負担をどうするか」といったことで意見が対立してしまい、家庭内に不和が起こったというケースも少なくありません。
親が要介護状態になる前に、介護に関して家族や親族同士で話し合っておくことが必要です。
④仲間とつながる
同じ経験を持つ人たちと思いや経験を分かち合うことは、精神的なストレス解消になります。
「家族の会」や地域の介護教室などで仲間作りができたり、経験者や専門家から新しい知識や情報を得ることができます。
自治体の窓口や地域包括支援センターなどで尋ねてください。
まとめ・・・介護のために仕事をあきらめない
介護離職をする前に、仕事をあきらめない方法をまとめました。
- 仕事を辞めないですむサポート制度を知る
- 介護サービスを有効利用する
- 家族・親族で手分けして介護ができる方法を考える
- 愚痴を言えたり情報源となる仲間に入る
介護は一人ではできません。親の介護の状況によっては、より多くのサポートメンバーが必要になってくるかもしれません。
自分だけですべての介護をパーフェクトにこなそうと無理をすると、介護疲れが蓄積してしまい、心身のバランスを崩しかねません。
介護する人・介護される人の両方に負担が少なく、長く続けていける介護を携わる人みんなで考えていきましょう。
投稿者プロフィール
- 介護福祉士・主任介護支援専門員・認知症ケア専門士・社会福祉士・衛生管理者・特別養護老人ホーム施設長・社会福祉法人本部長経験と、福祉業界で約25年勤務。現在は認知症グループホームでアドバイザー兼Webライター。
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