要介護5で在宅介護はもう無理!と思っている方に、在宅介護で利用が多い介護保険サービス、また実際に要介護5の人を介護していた家族の事例などを紹介します。
また、在宅での介護が限界になった時の施設の探し方のコツなどもまとめていますので、参考にしてください。
要介護5ってどんな状態?
内閣府の高齢社会白書によると、要介護5の認定者数は全国に約59万人(2019年時点)で、徐々に増加しています。
要介護5は、要介護度の5つの区分の中でも一番重度の区分で以下のような状態に該当します。
1. 食事や排泄、入浴など、生活全般に介護が必要
2. 立ち上がったり、歩いたりすることがほとんどできない
3. 理解力や思考力の低下が見られる
4. 意思疎通が困難である
つまり、一日中ほとんど寝たきりで、移動や食事、排泄など昼夜を問わずあらゆる場面で介助が必要であり、病状や健康管理などの定期的な医療的ケアも必要となる状態です。
要介護5になる原因の多くは、脳卒中や認知症とされています。そのため、理解力や思考力の低下や意思疎通が困難になるケースも多いのです。
参考:【厚生労働省】https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11901000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Soumuka/0000126240.pdf
要介護5の人がよく使う在宅介護サービスは?
要介護5の人が受けられるサービスは、在宅介護サービスや介護施設サービス、福祉用具のレンタルや購入など幅広くあります。要介護5の人は多種多様な介護サービスが受けられるため、その人の状態に合った介護サービスを利用することが必要です。
私の経験上、要介護5の方のご家族がよく利用していたのは以下のサービスです。
- 更衣やオムツ交換・清拭、食事の介助等の訪問介護
- 自宅でお風呂に入ることのできる訪問入浴
- 医療的ケア(健康管理と医療との連携)の訪問看護や訪問診療
- 介護用ベッドや床ずれ防止用具などの福祉用具レンタル
また、自宅で介護を続ける場合には、重度の人を受け入れてくれるデイサービスや要介護者とその家族が離れて過ごすための短期入所サービスなどを確保しておくことも大切です。
夜間や日中などに定期的にオムツ交換や状態観察に来てくれる夜間対応型訪問介護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護などを使う人もいます。仕事をしながら介護をしている人には、留守の間や自分の睡眠時間の確保に役立ってくれます。
ただし、介護サービスは地域によって整備にばらつきがあったり費用の問題もあるので、担当のケアマネージャーと「要介護5の家族を介護しながらどんな生活をしたいのか」をよく話し合うことが必要です。
事例で見る要介護5の家族介護いろいろ
私はこれまで、要介護5の人を介護してきた家族をたくさん見てきました。家族はそれぞれ、自分たちのできる範囲で介護を続けていました。
ここからは、私が実際に出会った3家族の事例を紹介します。
【事例1】施設入所後も、自宅で要介護5の母親の介護を続けた子供たち
脳出血と認知症で寝たきりの状態であった90代の女性のAさん。要介護5で施設入所後、ほぼ毎日近所に住む息子さんが夕食の食事介助に来ていました。Aさんの子どもは、その息子さんと東京や大阪に住む娘さんの3人。彼らは年に2回、息子さんの家でお盆とGWに「介護週間」を作り、Aさんを自宅に連れて帰って介護をしていました。
もちろん、施設が送り迎えを行い、食事の作り方や介助の仕方、オムツ交換や清拭、健康観察の方法、急変時の対応など、施設からマニュアル本を配布し、連絡を密にしながらの2週間です。
要介護5で話すことも動くことも出来ないAさんでしたが、3人の子どもたちはこの「介護週間」で少しずつお母さんの最期に向けての心の準備ができたと話していました。
「介護週間」はAさんが亡くなるまで5年以上続きました。
【事例2】若年性認知症の妻が施設入所した後、夫が参加した施設の介護
70代の女性Fさんは、若年性認知症でした。発症して10年以上、ご主人が自宅で介護をしていました。
トイレに入浴、食事、整容、着替え、通院、睡眠まで、一人でできなくなることがどんどん増えても、ご主人は付きっ切りで介護をしてきました。いよいよ在宅で介護が無理だと感じたのは、Fさんがひとときも座っていられない状態になった時です。もちろん、言葉も発することができず、一人でできることはほとんどありませんでした。
Fさんは施設に入居することになりましたが、食事も排泄も入浴も立ったまま、5分もすれば動き出してしまいます。施設の中を縦横無尽に歩き回るFさんには転倒や衝突のリスクが大きく、常に誰かが側にいる必要がありました。
施設の職員だけでは到底見守ることはできません。ある時は施設の職員が、ある時はご主人が、協力しながら介護を行っていきました。
直接の介助は施設の職員が行いましたが、毎日施設に来て奥様の手を取って歩いていたご主人の姿は、奥様にとっても職員にとっても大きな安心感を与えてくれました。
その後、Fさんは体調不良で入院となり、最終的には病院で亡くなりましたが、「本当はこの施設で死にたかったと思う。」と、奥様の思いをご主人が伝えてくれました。
【事例3】寝たきりの義母を在宅で看取ったお嫁さんの決断
要介護5で寝たきりのTさんを在宅介護で看取ると決めたのは、お嫁さんでした。脳出血で要介護状態となり寝たきりになって15年以上。結婚生活のほとんどが寝たきりのお義母さんの介護でした。
「訪問介護と訪問看護、訪問入浴、訪問診療。最初はデイサービスを使おうと思っていたんだけど、行く段になったら体調が悪くなる。行きたくないんだろうな、と思って。全部自宅で受けるサービスにする。そのぶん、人に任せられるものは全部任せる。ここまでやったんだから、この家で看取ります。」ときっぱり。
家業の農業や自分の趣味も出来るように、また、自費が発生しないように、サービスの入れ方については相当話し合いました。お嫁さんが不在でも介護ができるように、介護事業所は車を横づけにして直接お義母さんの部屋へ入退室ができるように、工夫しました。
「ある意味、お義母さんが寝たきりで動けなかったのが、介護が続けられた要因の一つかもしれない。お世話になっていた介護事業所や病院が近くだったことも本当に助かった。」とお嫁さんは話しました。
在宅介護が限界になった時は?
以上の3家族の例は、大変ながらも前向きに介護に取り組んでこられた例ですが、認知症などで人格が変わってしまったり、排泄のトラブルなどで「もう無理だ」と感じ、介護している家族のほうが死を考えたり、「なんのために生きているのか」という感覚に陥ってしまうことも多くあります。
家族のことをいくら想っていても、自分自身の体にも限界があり、「自分の力だけでは無理だ」と思うことは当然です。どんなに頑張っても在宅の介護がもう限界だと感じたら、無理せずに施設入所を考えましょう。
家族を施設に入れることに抵抗がある人もいるでしょう。しかし、介護する側が倒れてしまっては元も子もありません。程よい距離を保てるからこそ、それがプラスに働くということも大いにあるのです。
親の介護は9割逃げよ
介護する家族の高齢化など、高齢者を支える側も様変わりする中、これからは、子が親を支えると同時に、親自身も自分を支える準備をすることが大切です。
この本では認知症や介護に対する心構え、住まいや資産、家計の管理、相続や葬儀、お墓についての備えなど、「親の老後」の悩みをすべて解決します。家族に介護が必要になったらぜひ読んでいただきたい、家族介護者の心を軽くする1冊です。
費用を抑えて納得いく施設を見つける4つのポイント
もしも施設入居を検討されるなら、以下のポイントを抑えておきましょう。
1. ネットやケアマネ、知人情報などで費用の相場を調べる
2. 多床室(相部屋)のある特別養護老人ホームを検討する
3. 入居一時金のない老人ホームを調べる
4. 利用者本人が出せる費用を基準にする
施設は費用の差が大きくあり、費用が高い、建物が新しいからといって必ずしも「いい施設」だというわけではありません。費用が安くても建物が古くても良い施設はたくさんあります。
また、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の「家賃(利用料)」、「管理費」は、一般の賃貸住宅同様に都市部の方が高く、地方の方が安いことを覚えておきましょう。
こまめに情報を集めて、見学したり口コミを聞いたりして探していけば、納得いく施設が見つかるはずです。
納得のいく施設が見つかった場合は、ひとまず申し込みだけでも先に済ませておきましょう。順番待ちですぐに入居できない施設が本当に多いのです。順番が来たときに、実際に入所するのか・しないのかは、利用者本人と家族が決めて良いのですから。
まとめ
要介護5の状態は、常に誰かの介護が必要な状態です。時に行き詰ってしまうことや、ストレスでいっぱいになってしまうこともあります。
しかし、在宅の介護であっても施設介護であっても、あなたやご本人の周りには必ず多くのサポートがついているのです。
介護の中身や費用についても相談に乗ってくれる場所が、必ずあります。
要介護5であっても、在宅で介護を続ける人もいれば、施設に入所して介護を続ける人もおられます。一人で悩まず、何に困っているのか、何が無理だと思うのかを身近な専門職に相談してみて下さい。
投稿者プロフィール
- 介護福祉士・主任介護支援専門員・認知症ケア専門士・社会福祉士・衛生管理者・特別養護老人ホーム施設長・社会福祉法人本部長経験と、福祉業界で約25年勤務。現在は認知症グループホームでアドバイザー兼Webライター。
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