老若男女問わず発症する可能性のあるうつ病ですが、高齢者の場合は認知症と間違われるケースが多くみられます。
そのせいで家族や友人もうつ病に気付けず、症状が進行してしまうことも多いようです。
うつ病がきっかけで寝たきりになってしまうケース、また、病気がケガにより寝たきりになってしまったことからうつ病を発症するということもあります。今回は高齢者のうつ病について、老人性うつ病の特徴やきっかけ、認知症との違いなどを解説します。
老人性うつ病は「寝たきり」が原因になることも
一日中気分が落ち込んだり、食欲不振や睡眠障害が起こったりと、気分障害のひとつであるうつ病。うつ病とは、ふさぎ込んでしまったり、なにごとにも興味を示さなくなったり、食欲不振や無関心などの症状が2週間以上続く状態を指します。
65歳以上の高齢者がうつ病を発症した場合は「老人性うつ病」と呼ばれます。高齢者は加齢とともに、身体面と精神面が衰えることに加え、子どもの独立や退職、近親者の死別など孤独感を感じることも増えるでしょう。その結果、うつ病を発症する可能性が高くなってしまうのです。
さらに、病気がケガによって寝たきりの状態となってしまったことがきっかけでうつ病を発症するということもあります。それまでは活動的だった人が、寝たきりの状態で刺激が少なくなったことが引き金となるケースです。
寝たきりの状態が認知症を引き起こすこともあります。状態が認知症なのか、老人性うつ病なのかの診断は慎重に行う必要があります。
老人性うつ病を発症すると、活動性の低下とともに、食欲低下や筋力低下がみられる傾向があります。そのせいで、移動や排せつといったADL(日常生活動作)も低下してしまい、寝たきりになってしまったり、寝たきりの状態が悪化してしまうといった悪循環に陥るケースもあるのです。
老人性うつ病の特徴とは
高齢者のうつ病は、身体の痛みや倦怠感などの身体症状が多く見られます。めまいや頭痛、不眠、頻尿、脱力感など、加齢と共にみられることの多い症状のため、うつ病であることが見過ごされてしまうケースも多いです。
高齢者本人も「なんとなく身体がしんどいな」と思うことはあっても、それがうつ病であると自覚することは少ないでしょう。
異変を感じたら早めに医療機関の受診が大切です。老人性うつ病は早期発見し、正しく治療をすれば回復が見込めます。
老人性うつ病を発症するきっかけは?
老人性うつ病は、身体疾患や環境変化などをきっかけに発病することが考えられます。定年退職や子どもの独立、配偶者や親しい人との死別などが続くと、本人も落ち込んでいるだけだと思い、うつ病に気付かないケースも多いでしょう。一人の時間が多く孤独を感じたり、これからどうしようと不安を抱えたりすることが、うつ病のきっかけになってしまいます。
先に述べたように、病気やケガがきっかけで発症するケースも多く、刺激が減ってしまう、自分の役割を見失ってしまう、希望が持てなくなるなどの状態が引き金になることがあります。
認知症との違いは?
老人性うつ病は、認知症の初期症状と似ている部分が多く、見分けるのは困難です。うつ病になると、考えること自体が面倒になり、集中力が低下してぼーっとすることが増え、認知症のように見えてしまうこともあります。
では、具体的に老人性うつ病と認知症にはどのような違いがあるのか見てみましょう。
症状の進行速度が違う
認知症の進行はゆっくりで、発症したかどうか気付きにくいケースが多くあります。一方で老人性うつ病は短期間に複数の症状が見られ、本人も周囲も異変に気付きやすいのが特徴です。
本人に自覚があるかどうか
認知症の初期は、認知機能の低下を本人も感じて不安になることがありますが、認知症が進行するにつれ、自身の認知機能の関心が薄れてしまい、自覚するのは難しいでしょう。老人性うつ病は、本人が認知機能の低下をはっきりと自覚しており、症状が悪化していないか不安に感じている場合が多く見受けられます。
質問に対する受け答え
認知症の人は質問に対して的外れな回答をすることがあり、本人にそのことを指摘すると言い訳したり、はぐらかしたりする様子がみられる場合もあります。一方で老人性うつ病の人に質問をした場合、しっかり考えてくれますが、結果的には答えられないこともあるようです。
物忘れの度合い
認知症のなかでもアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症の特徴として、症状の進行とともに徐々に記憶障害が重くなっていきます。一方、老人性うつ病の場合は、ある日突然記憶障害が起こり、本人が不安になってしまうケースがほとんどです。
老人性うつ病と認知症が合併する場合もある
老人性うつ病と認知症は合併するケースも多く、認知症の前触れにうつが現われることもあります。また、抑うつ状態やうつ病の方が認知症になる場合もあるため、認知症の発症に気付きにくいこともあるでしょう。うつ病と認知症の治療は異なるので、適切な治療や診断を受けるためにも、専門医を受診することをおすすめします。
親が老人性うつ病になった時の対処法
親が老人性うつ病になってしまった時に、慌てることなく対応することが大切です。いざという時に落ち着いて対応できるよう、対処法を覚えておくとよいでしょう。
環境調整
老人性うつ病の原因のひとつに孤独感があげられます。孤独感を解消するためにも、家族や友人が話し相手になれる機会を作りましょう。別居している場合でもなるべく訪問し、身の回りのことができているか確認するのも大切です。また、うつは休養した方がよいというイメージもありますが、老人性うつの場合は活動することを重視しましょう。家にこもりがちでは、筋力が低下し、体力や意欲も衰えてしまいます。外出に誘ったり、地域の活動があれば参加するよう勧めてみたりして、一人で何もしない時間を減らすよう誘導してあげましょう。
精神療法
医師や看護師と会話したり、専門のカウンセリングを受けたりすることで、うつの状態が改善するケースがあります。また、本人の症状や気持ちを汲み取って同調したり共感したりすることで、不安な気持ちが薄れることもあります。老人性うつ病と向き合うためには、家族や友人など周りの人の理解とサポートも大切です。
薬物療法
老人性うつ病は抗うつ剤を用いて治療するのが基本ですが、血圧が上がったり、尿が出にくくなったりと副作用が生じる場合があります。持病の薬がある場合は、飲み合わせなどにも注意が必要です。また、高齢者に多い緑内障患者には使用できない薬もあるため、必ず医師に相談しましょう。
まとめ
高齢者のうつ病は老人性うつ病ともいわれ、さまざまな身体的不調や精神的な落ち込みが見られます。最近様子がおかしいなと思うことが増えたら、本人の訴えに耳を傾け、周囲も注意して様子を観察しましょう。老人性うつ病は正しい治療で改善できますが、気付かないままうつの症状が進行すると、寝たきりになってしまう可能性もある怖い疾患です。加齢のせいにして軽視せず、早めに医療機関を受診しましょう。
投稿者プロフィール
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5年にわたり祖母の介護を経験。その経験を元に、介護の世界へ。
現在はライターとして介護の記事を中心に執筆中。
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