高齢者に大切な口腔ケアの種類と具体的な方法・便利グッズをご紹介!

介護の豆知識

高齢者の健康維持には「口腔ケア」が非常に大切です。

口腔内を清潔に保つことは「ご飯が美味しく食べられる」など生活の質(QOL)の維持はもちろん、虫歯や歯周病を予防し、誤嚥性肺炎など高齢者が罹りやすい病気の感染を防ぐなどの意味合いもあります。

また近年の研究では、脳卒中や認知症などの各種疾患と虫歯との高い関連性も明らかになっていますので、積極的にケアしていきたい部分です。
(余談ですが若年性認知症になった私の親は歯医者を長年嫌がって全く治療をしてきませんでした。家族として非常に後悔が残っています…。)

この記事では、そういった高齢者の口腔ケアの重要性や具体的な方法、さらに便利な口腔ケアグッズなどをご紹介していきます。
ぜひ参考になさって、ご自身やご家族の健康的な生活にお役立てください!

口腔内の問題が高齢者に与える影響

先でも述べたように、高齢者にとって「お口の健康」は「全身の健康」と直結しています。

その影響経路は大きく分けて以下の2つとされています。

①炎症系経路
②運動刺激系経路

①炎症系経路からの体への影響

『口腔の二大疾患』と言われているのが、「虫歯(う蝕)」と「歯周病」です。
どちらも糖の摂取やお手入れ不足、健康状態など様々な因子が関連し合って起こる疾患ですが、それらの異常を放置すると口腔内で「炎症」が起こり、以下のようなパターンで体へ影響を及ぼします。

・その部分の炎症物質(サイトカインなど)が血流とともに全身に巡り他の箇所にも影響を与える。
・それらの原因菌(ミュータンス菌など)が患部付近の血管から侵入して全身の局所に影響を与える。

具体的には
・糖尿病(慢性炎症によりインスリン抵抗性が生じ血糖値が上昇)
・循環器疾患(心疾患・脳血管疾患など。血中に入った歯周病菌が動脈硬化を引き起こす)
・認知症(同じく菌の脳内への侵入)

などの様々な疾病との関連性が明らかになっています。

②運動刺激系経路からの影響

筋力低下や麻痺、歯の痛みなどを原因として咀嚼・嚥下機能が落ちることで、全身への影響をきたす経路です。

具体的には
・誤嚥性肺炎
・栄養低下からの弱体化
・認知機能の低下、認知症(咀嚼力が弱まると三叉神経を介した大脳皮質への刺激が減り、脳の覚醒がや活動が低下する)

などが挙げられます。

体の抵抗力が弱ってきた高齢者にとっては、少しの炎症や菌でもこうした大きな問題に発展することがありますので、しっかりケアをしていきましょう。

高齢者に必要な口腔ケアとは

口腔ケアと聞くと、一般的には「歯磨きや虫歯治療」が思い浮かびます。
高齢者の場合はさらに気をつけたい点がありますので、順にご紹介していきます。

⚪︎高齢者に必要な口腔ケア⚪︎

1.口内環境の維持と口腔疾患の予防
2.口腔疾患(虫歯や歯周病など)の治療
3.定期的な歯科検診と歯垢除去
4.身体構造や環境面からのアプローチ

1.口内環境の維持と口腔疾患の予防

口腔ケアで一番基本的かつ重要なことは「日々の歯磨き」です。
できれば毎食後(30分後くらいがおすすめ)、少なくとも一日の最後には必ず歯磨きを行い、虫歯や歯周病を予防しましょう。

またその際、道具のチェックも大切です。

・歯ブラシの毛が硬すぎないか
・ヘッドが大きすぎないか
・持ち手が握りやすいか
・入れ歯なども定期的に洗浄できているか

など確認を行なってみてください。
高齢者は手の力が弱く、お口が開きにくい場合もあります。磨きやすい道具を用意しましょう。

またそういった方のため、ケア用品の中には全面が柔らかいブラシになっている磨きやすい歯ブラシもあります。

口腔ケアブラシ

歯垢除去率は、従来歯ブラシの1、8倍(日本障害者歯科学会)

歯磨き機能にプラスして、歯ぐき、舌、頬のケア。病院・介護施設で評価された「口腔ケアブラシ」です。

家族などが磨いてあげる際にも便利なのでぜひお役立てください。

さらに、入れ歯を利用されている場合はその接合部も特に虫歯や歯肉炎などになりやすいため、それら義歯用品も定期的に発泡殺菌剤などでしっかりと洗浄しておきましょう。

2.口腔疾患(虫歯や歯周病など)の治療

実際に歯の痛みや違和感がある場合、虫歯や歯周病などが起こっている可能性が高いので、歯科での治療を行います。

その際、本人が治療を怖がったり、認知症などで安静が難しい場合には、「静脈内鎮静法」などで心身を落ち着けるという方法もあります
(私の親もその方法を用いて認知症初期でようやく歯科にかかりました。)
健康状態によってはリスクもありますが、ひどい口腔トラブルを放置するのも立派なリスクですので、お困りの際は早めに歯科医師さんにご相談ください。

また、歯の痛みや違和感の原因は虫歯ではなく「噛み合わせの異常/義歯のアンバランス」などの場合もあります。
私たちの歯は年を重ねるごとにゆっくりと動いているので、口腔内での歯の位置も徐々に変わっていきます。
「圧がかかっていた部分を少し削ってもらったら、歯の痛みだけでなく頭痛までなくなった」と話されていた高齢者もおられますので、ぜひ専門家にしっかりと診て頂きたいと思います。

3.定期的な歯科検診と歯垢除去

口腔内に特段問題がなくても、歯科での定期的なチェックや歯垢除去などのメンテナンスはお口の健康にとってとても大切です。

ご自身でどれだけ歯磨きを行なっていても、虫歯や歯周病の原因となる歯垢(プラーク)は溜まっていってしまうもの。

ましてや高齢者となると細かな歯磨きが難しい場合が多くなりますし、また実際に歯に異常があっても自覚症状が乏しい場合も多々あります。
さらに、違和感を感じていてもそれが日常化してしまっていたり、うまく言葉で表現できず、問題が表面化しないことも。

ですので、ぜひ専門家による定期的な検診とメンテナンスを心がけてください。

4.身体構造や環境面からのアプローチ

①口内の潤いを保つ/唾液を出しやすくする

高齢になると唾液の分泌量が減り、口腔内が乾燥してしまうことで菌が増殖しやすく、その結果口腔トラブルに繋がりやすくなります。

対策としては、普段からお水やお茶などのこまめな水分補給を行うことです。

また、耳の下や顎の下には「耳下腺(じかせん)・顎下腺(がっかせん)・舌下腺(ぜっかせん)」という「唾液の分泌を促すポイント」があります。そのあたりを優しくマッサージするのもおすすめです。

それでもお口の潤いを保持しにくい場合はこのような便利なグッズもあります。

口腔用ジェルうるキープ(オーラルプラス)

水分含有量75%以上ですのでベタつかず、みずみずしい感触です。
うるおい成分(ヒアルロン酸・トレハロース)配合で、しっとり感が長続きします。

口腔ケアジェル バイオティーン

渇きがちなお口の方のことを考えて処方された、バイオティーン オーラルバランス ジェル。
お口に潤い感を与え、口中を清潔に保ちます。

指先や舌先でお口の中に塗り広げると口腔内が保湿され、口臭や乾燥による不快感も防いでくれるのでとても助かります。
わが家でも度々利用し、「もっと早く知りたかった」と感じたグッズでした。

②咀嚼や嚥下を行いやすくする

また「咀嚼がスムーズにできる/顎の開閉がしやすいこと」は、唾液の分泌量を増やして虫歯や誤嚥を予防したり、更には会話能力や運動機能、認知機能を高めることにも繋がるといわれています。

・よく噛んで食べる
・固いものも食べる(無理はせず!)
・口の中で舌を弾いて音を鳴らす
・舌で右の頬や左の頬を内側から押す

など、お口のトレーニングを意識的に行ってみてくださいね。

その他、
・好きな歌をうたう
・おしゃべりをする
・早口言葉を練習する

(『パタカラ♪』と繰り返し元気に発音するというのも有名なお口エクササイズのひとつです)

これらも立派なトレーニングとなります。
下のような練習本もありますので、皆さんで楽しみながらぜひ取り組んでみてください!↓

早口言葉で口腔トレーニング

口腔機能の向上・脳トレ・介護予防に効果的!

早口言葉を楽しみながらトレーニングでき、口腔機能の向上・脳トレ・介護予防に効果的です。DVDを見ながら早口言葉を言うだけで、バランスよく口腔機能が鍛えられます!

高齢者が口腔ケアを嫌がる場合の対処法

認知機能の低下などで「歯磨きの必要性がわからない」、もしくは単に面倒がってしまうなど口腔ケアに全く関心がない場合は、ご家族の方の手助けが必要となります。

介護や看護の現場ではこのような場合、いくつかの段階に分けて口腔ケアを進めていきます。

ーーーーーー

1.導入
→タイミングを図る、覚醒を促す、会話して機嫌を良くする、安心感を与える、歯ブラシを見せて口腔ケアを行うことを伝える、拒否の理由を把握する、など

2.実施
→開口を促す(保湿ジェルなどで唇を少し濡らしてあげると口を開けやすい)、唇の先端や前歯は刺激を強く感じやすいので口の端や奥歯から触れる、口が綺麗だねと褒めたり終始ポジティブな声かけを行う、無理強いをしない、心地よさを感じてもらえるよう優しく行う、痛みのある部分は慎重かつ時間をかけない、など

3.保留(上記にも応じてくれない時)
→さらにタイミングを見計らう、頬などをマッサージをして緊張を解く(開口しやすくなる)、場所や姿勢を変えようかと提案、痛みを与えない約束をする、「お口の中見せてもらうだけ」→「よければ少しだけ歯ブラシしようか」などと一歩ずつ進める、少し口が開いた時に「そうそう上手!」とポジティブな声かけをする、タフトブラシなど非常に小さなブラシに変えてみる、など

4.ケアの終了(次回の実施に繋げる)
→終わりだと分かる声かけや労いの言葉を伝える、うがいをしてもらう、「綺麗になったよ」と効果を伝えたり実感をしてもらう、本人の気持ちを確認し必要があれば謝る(「長くかかってごめんね、途中痛かった?ごめんね」など)、「また次も見せてね」と次回の約束をする

5.中止
色々なアプローチを行ってもどうしても反応が悪い場合は、無理せず中止する。

ーーーーーー

大切なことは、上記のどの段階でも
・痛いことはせず優しく行う
・安心感を与える
・根気強く勧めるが、どうしても嫌がる場合は無理をしない
ことが大切だとされています。

本人が必要だと思っていない/やりたくないことを行わせる場合は与える負担感が大きくなりますし、そもそも高齢になると口を開け続けているだけでも非常に疲れるものです。
また「口の中を人に見せたくない」という心理が背景にある場合もあります。

ですのでどうしても歯ブラシが難しい時はこういったうがい用品を使うのもひとつの手です。

●キャプスショップ「うがい」リンク
うるおいマウスウォッシュ オーラルプラス | 介護・福祉の総合マーケット キャプス (caps-shop.jp)

無理をせず、労りの気持ちを持って接することを忘れないようにしたいです。

まとめ

高齢者の口腔ケアについて見てきました。
口腔ケアはお口の健康だけでなく、生活の質や全身の健康維持にとって必要不可欠なものです。
しかし、それと同じくらい高齢者本人の気持ちや関係を良好に保つことも重要です。
関係が良好に保て、信頼を築けていれば、口腔ケアを含む様々な取り組みへの誘導もしやすくなります。
ですのでお互いに無理をしすぎず、なるべく穏やかな気持ちで取り組んでいきましょう。

参考文献

・口腔と全身との関係 Relationship Between Oral Condition and Systemic Health  日本調理科学会誌 Vol. 50,No. 5,213~215(2017)
・認知症高齢者に対する効果的な口腔ケアに向けた文献検討 Literature Review on Effective Oral Health Care for the Elderly with Dementia 日本看護科学会誌 J. Jpn. Acad. Nurs. Sci., Vol. 40, pp. 587–593, 2020
・口腔ケアを受け入れない認知症高齢者の心地よさに繋がる口腔ケアの探求 Research on oral care that lends comfort to elderly people with dementia who generally refuse oral care UH CNAS,RINCPC Bulletin Vol.21,2014

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