母は精神科病棟へ…認知症の人を精神科で治療するとは?

親の介護

6月に母が自宅のテラスで骨折して以来、いろいろなことがありました。

軽度の認知症が入院によって悪化し、せん妄や幻覚、介護拒否等の言動が頻回になってきて毎日のように病院から電話(転んだとかふらついたとか失禁が続くとかの状態報告です。)が続きました。

不適切にも「もしやこれは病院のケアの問題ではなかろうか?…」などと考えていた時に、母が転院したリハビリ病院から「足の状態はほとんど良くなっているので、現在の認知症状について精神科で薬の調整やケアの方法を考えましょう。」と進言されて今に至ります。                          

この記事では、精神科病院への入院や治療の方法、私が見たり感じたりした病院の実情、母の様子などについてお伝えします。

家庭や通常の介護施設、一般病棟で個別のBPSD(周辺症状)に対応しなければならない場面が増えると、精神科での治療が検討されることがよくあります。一般病棟や介護施設等では精神科の専門の医師が常駐することがないため、患者の状態を看護師等が精神科の医師に相談して薬を処方してもらうという手順が踏まれます。

そのような場合、患者の生活のパターンや病状の変化、処方された薬の効果などが分かり難く、思わぬ副反応が出たりします。

私の母の場合は、感情の突発的な起伏、身体機能の低下でした。

『夕方にそわそわして動き出し、帰宅願望が激しくなる』などの周辺症状は、介護をしている人たちにはよく知られる行動です。どんな対応が適切かと、職員同士のミーティング、ケアマネジャーや本人、家族も含めた担当者会議等で報告・協議・試行錯誤していくものです。

私は、当然にそんな対応がされるものと思っていましたが、リハビリ病棟では無理です。なにしろ、そこはリハビリをする病棟であって認知症の症状を緩和させて落ち着かせてくれる場所ではないからです。

薬を増量され、歩行器で歩いていたのに車いすになり、失禁も多いからと厚手の紙パンツやパッドに変わり、結局、母はリハビリ病棟での入院継続は困難と判断されました。

令和2(2020)年の厚生労働省の「患者調査」によれば精神病床に入院している認知症の人の数は 5.8 万人であり、その数は平成 14(2002)年の同調査と比較すると 1.4 万人増加しています。

https://www.jamhsw.or.jp/ugoki/hokokusyo/202406-dementia/houkoku.pdf
https://www.mhlw.go.jp/stf2/shingi2/2r9852000000r3oa-att/2r9852000000r3ux.pdf

精神科病院では、病気の悪化によって入院しなければ心身の安全が守れない状況においては、本人の意思にかかわらず入院治療を開始したり、生命を守るためにやむを得ず本人の行動を制限することがあります。

精神科への入院には、「措置入院」「医療保護入院」「任意入院」の三つの形態があります。

2名以上の精神保健指定医の診察により、警察などから通報があり保護された自傷他害(自分や周りを傷つけること)のおそれがあると判断された場合、都道府県知事の権限により措置入院となります。

その他に応急入院指定病院(精神保健福祉法に定められた基準を満たしている病院)において、指定医が診察した結果、本人や家族等などの同意が得られない状態でも72時間以内に限り入院ができる応急入院があります。

 認知症の患者は自分で入院を決断することが難しいことが多いため、家族等の同意を基にした医療保護入院が適用されることが一般的です。この制度は本人の同意なしに家族や後見人等の同意で入院が可能になります。

医療保護入院には患者の権利を守るための規定(入院時に作成する入院診療計画書の作成等)も定められており、定期的に状態を確認する体制(「退院後生活環境相談員」の配置等)が整っています。

 患者が自身で入院に同意した場合は、任意入院となります。 認知症患者がこの形態をとることは少ないですが、軽度の認知症や本人が入院に理解を示せる状態であれば、選択肢として可能です。本人の意思が尊重されますので、認知症の人の場合はより適切で分かりやすい説明が必要です。

この場合、患者の意思で退院することも可能ですが、病状に応じて医療保護入院に切り替わることもあります。

入院はどの場合においても、人権に配慮して、精神科医からの告知書や、本人または家族等の同意書(応急入院は除く)のように、書面を用いて入院手続きが進められることになっています。

当初、母は医療保護入院のために家族への説明と入院の同意が必要と言われていました。しかし、母は病院側の説明をどのように理解したのか、入院同意書に自分で署名をしていました。

なんだか腑に落ちない思いがあったのですが、任意入院ということで退院は本人の意向が反映されるようになりました。

精神科病院では、複数の看護師や医師あるいはその他の専門職が複数勤務しており、より重症な精神障害者への対応が可能です。

まず、精神科病院の構造について説明します。

精神科病院には、病棟の出入りが自由にできる開放病棟と、出入り口が常時施錠され病院職員に解錠を依頼しない限り入院患者が自由に出入りできない閉鎖病棟があります。任意入院者においても開放処遇を制限しなければその医療又は保護を図ることが著しく困難であると医師が判断する場合に関しては、閉鎖病棟を利用します。私の母もその症状から閉鎖病棟での入院となりました。

閉鎖病棟での生活や治療活動は、入院患者の安全と症状の安定を図るために環境の変化を減らし、見守りや監視の行き届く範囲で行われます。

そのため、家族が直接観察できない部分も多く、どのようなケアや活動が実施されているのかが分かり難い点があります。

下記に精神科の認知症の人に対してどんなことが実施されているのか紹介します。

認知症患者が安定して過ごせるよう、適切な薬物療法が行われます。薬の種類や量はその症状に合わせて調整され、副作用のチェックも慎重に行われます。医師や看護師が本人の状態を随時確認しながら、必要に応じて薬の検討を行っています。

認知症の人が可能な限り生活能力を維持できるように、日常生活の支援が提供されます。例えば、食事、身の回りの世話、清潔ケアなどが看護師や介護福祉士等によって行われ、認知症の人が日々の生活を安定して過ごせる環境が整えられています。

作業療法やリハビリテーションも認知症の人には欠かせない療法です。特に認知症の人には簡単な作業や絵画、音楽療法などが効果的です。

他には記憶や認知機能を刺激する活動も行われます。例えば、過去の出来事について話す回想療法、軽い運動、パズルやゲームのような活動が、適度に繰り返し行われます。

これらの活動は、日常生活にリズムを持たせ、孤独感や不安感の軽減、意欲の高まり、対人交流の促進などの効果が期待されます。

入院患者の安全を守るために、24時間体制で医療スタッフが常駐し、必要に応じて迅速な対応ができる体制が整っています。医師、看護師、精神保健福祉士が連携し、その人それぞれの状態を日々観察しながら、家族にも定期的に報告や相談が行われることが一般的です。

母の病棟では、午前中にアクティビティや運動、午後に趣味活動が行われているようです。

母は体を動かすことが好きなので、風船バレーやボーリングなどのゲームを積極的に楽しんでいるようです。また午後は歌を聞いたり歌ったりもしています。面会時間がちょうど歌謡の時間に当たるので、そっちが気になるそぶりも見られるようになりました。周りに関心が向くようになった兆候の一つです。

最近は、雑誌を読んだり塗り絵をしたり、近くの人とお喋りしたり(内容は分からないらしいですが…)落ち着いて過ごせる時間が増えてきたと報告がありました。もちろん、薬の量や回数の調整は続いていますが。

ちなみに、母は環境の変化に興奮したり不穏を起こすので、2名までの家族にしか会えません。でも、スマホで撮った写真などを見せるととても喜んでくれます。面会は15分。その間、「今日の昼ご飯は何食べた?」とか「午前中は何をしたの?」など話をします。母との会話は「?」なことも多いのですが、以前のように全く会話が成立しないことは少なくなってきました。

おやつや果物を持っていくこともあります。必ず看護師に相談しなければなりません。以前、揚げあられを持って行ったときは「こんな固いものは食べられない」と言った看護師の前で、母がにこやかにぼりぼりと食べてしまって「あら~、硬いものでも平気なんですね」と驚かせたこともありました。

リハビリ病棟では「一緒に帰る」ときつい顔で言い張っていた母が、今では施錠扉の前で「今日はありがとね」と看護師に支えられながら手を振ってくれるようになりました。

精神科の入院にはリハビリ病棟のように退院期限は設けられていません。投薬や専門的なケアによって入院の原因となった周辺症状が落ち着いて施設や在宅で過ごせるようになったら、退院の時期となります。

任意入院の場合は、本人の意向が尊重されるので、病院側に退院を申し出ることも可能です。

 認知症の人が地域で安心して生活を続けるためには、地域資源を活用しなければ不可能です。地域包括支援センターや居宅介護支援事業所などを活用して在宅か施設かを検討していくようになるでしょう。決して退院を急ぐことなく、本人、家族と一緒に病院側とじっくり話して方向性をつけることが肝心です。

家族の介護力も考慮しながら、本人にとって一番暮らしやすい選択を心がけましょう。

私も今の母の状態を見ながら、どこでどのように生活するのが一番なのか考えていかなければなりません。

退院後の定期的な通院や服薬、症状に変化が出てきた場合の速やかな支援、認知症の人に適したケアができるような環境を整えたいと思っています。

認知症の方への接し方、認知症の方はどう見えているか、知ると心が軽くなる、そんな本を集めました。

    認知症の人が精神科病院に入院することは、家族にとってもショックが大きいものです。私も閉鎖病棟で初めて母に面会したときに、歩いて出てきた母を見た時は、涙が出ました。母の今後が不安でならなかったのです。「母が母でなくなった」と思ってしまいました。

    ところが、今回のことで適切な治療とケアを受けることで症状が安定し、入院中の生活がスムーズになることが分かりました。

    母がどのように変わっていくのか、まだ分かりません。だけど、私自身が、もっと柔軟な考え方や多くの引き出しを持って、対処していかなけばならないと思っています。

    家族や介護に関わる人たちが、精神科の入院について正しい知識を持ち、積極的に関係者同士でコミュニケーションをとり、話し合っていくことで認知症の人に安心感が生まれます。

    困った時に助けてくれるところが増えた、と思えることは大切なお守りです。

    精神科病院への入院を勧める場合は、本人や家族が失意に落ち込まないように十分にその内容を説明し、もっと強力なチームを再構成していきましょう。

    投稿者プロフィール

    りんご
    りんご
    5年にわたり祖母の介護を経験。その経験を元に、介護の世界へ。
    現在はライターとして介護の記事を中心に執筆中。

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