在宅介護が無理だと思ったら、自分自身を休めることも大切です。
私自身、在宅介護を経験し、「もう無理だ」と思ったことがあります。しかし、介護を辞めるわけにはいかず、どうしたらこの状況から抜け出せるのかを考えてきました。
今ではいろいろと試行錯誤しながら、少しだけ気持ちに余裕をもって介護にあたれるようになりました。そんな私の経験をお伝えします。今、「もう無理だ」と思っている方の参考になれば幸いです。
在宅介護のストレス
私の母は78歳の時に脳梗塞で倒れ、入院し一命を取り留めましたが、その後、長い介護生活が始まりました。
元々別の家で暮らしていたのですが、退院後は脳梗塞の後遺症と入院時に筋力が落ちてしまったことで、自分のことを自分でするということが難しくなっており、同居を決めました。
当時、中学生・高校生の子供がおり、仕事もしていたので、さらに介護が生活の中に入ってくることで本当に慌ただしく、うまく当時のことを思い出せない部分もあります。
在宅介護をしている人の多くが、疲労感、精神的なストレスを強く感じると聞いてはいましたが、実際は思っていた以上の疲労感とストレスでした。
母との関係性はもともと良かったのですが、家事、家族の世話、介護と休む時間がなく、自分の母だからとひとりでなんとかしなければという気持ちもあったと思います。徐々に、呼ばれても無視してしまう、食事をこぼすと強い口調で注意してしまうなど、疲労感を母にぶつけてしまうようになり、1日の終わりに後悔が押し寄せてくることも何度もありました。。夜中にトイレに行きたくなると、ベルを鳴らして呼ばれるのですが、それを気にしていると鳴っていないのに目が覚めてしまったり、眠れなくなったりと不眠状態にも陥りました。
また、母は女性といっても私と同じぐらいの背格好です。ベッドからポータブルトイレに移動する介助を何度も繰り返しているうちに腰を痛めてしまい、それでも自分がやるしかないからと、無理をしてしまっていました。精神的な疲労感のうえに体の痛みが追い打ちをかけ、もう限界…と思うようになってしまったのです。
もしあのままの状態で介護を続けていたら、私はうつ状態になっていたかもしれません。
適当介護の考え方
同じように親の介護をしている友人に話をする機会がありました。
彼女は親の介護が始まった早い段階で介護サービスのお世話になり、仕事を続けながらハツラツとした表情で生活していました。
自分とのあまりの差に驚き聞いてみると「お互い大人だから死なない程度に適当にやってるよ」とのこと。例えば食事をこぼされて腹が立つのは「こぼされて困る」という気持ちがあるから。
赤ちゃんが離乳食を食べ始めたとき、こぼれても仕方がない、と、新聞を敷き詰めたことがあるでしょう。仕方がないと思うと、それに対して準備をするし、多少こぼれても仕方ないっていう気持ちになれるよ。と教えてくれたのです。
母のために、いい娘であるために、そして子供たちにとっていい母親であるために一生懸命頑張りすぎていた自分を振り返り、もう少し適当でいいんだなと思わせてくれたのです。
思えば自分が勝手に頑張りすぎて母に強くあたったり、ピリピリした空気の中で食事を作ってイライラしながら夫や子供と食事をとっていました。
友人の「適当な介護」で笑顔でいられるという体験を聞き、完璧にやろうとしていたことを少しずつ変えていったのです。
今日は母のリハビリを頑張ろう。そのぶん夜ご飯は夫と子供に好きなものを買ってきてもらって、作らない日にしよう。
また次の日は、母のお風呂を我慢してもらって、夕食作りを楽しみ、みんなでごはんを食べる時間に余裕を持とう。
こうして、何かを頑張ってもその分なにかを頑張らないというように足し引きをするようになると、精神的なストレスが急激に減っていったのです。介護サービスも積極的に利用しました。ケアマネージャーさんに相談し、リハビリを増やしたいこと、日中は仕事に行く必要もあるため母を預けたいということなどを伝えると、通所リハビリに通えるように手配してくれました。
いつの間にか笑うことが減っていた自分が、また笑う余裕が出てきて、それに伴い、家族も笑顔が増えたように思います。
母も、私がピリピリした状態で、介助を頼むことはとても心苦しかったのだと思います。お風呂に入れない日も受け入れてくれましたし、感謝の言葉もかけてくれるようになりました。
「適当介護」は人によっては悪く聞こえるかもしれませんが、頑張りすぎて自分が壊れてしまったり、周りがピリピリしてしまうより、ずっといいと思っています。
親不孝介護 距離を取るからうまくいく
「長男だから、親を引き取るか実家に帰らないと」「家族全員で、親を支えてあげないと」「
親のリハビリ、本人のために頑張らせないと」「親が施設に入ったら、せめて、まめに顔を見せに行かないと」そんなものは必要なし!
「親と距離を取るから、介護はうまくいく」。
一見、親不孝と思われそうなスタンスが、介護する側の会社員や家族を、そしてなにより介護される親をラクにしていきます。
身体の負担を減らすボディメカニクス
友人からもうひとつ教わったことがあります。それは「ボディメカニクス」。
ボディメカニクスとは、人間の関節・筋肉・骨が動作するときの力学的関係を応用したもので、介助による体力消耗を減らし、最小限の力で介助ができる技術です。
例えば、介護者の腕を自分の方に回してから、自分は膝を落としてなるべく重心を下げるようにします。この状態で、両腕を相手の背中に回します。そして、相手に前かがみの状態になって貰って一緒に立ち上がります。
この方法により、立ち上がった際に相手の姿勢が安定し、力を使わずに介助ができるのです。
ただなんとなく力を入れて立ち上がりを介助していましたが、それでは自分の膝や腰に大きな負担がかかっていたということがよくわかりました。
一旦痛みがくると、介助するたびに苦痛になり、休む時間もないので治りも悪く、長く続いてしまいます。
このボディメカニクスを知ってからは、本当に介助が楽になり、早く知っておけばよかったと後悔しています。これから介護をする方、今、足腰の痛みで介助に苦痛を感じている方にはぜひ試してみていただきたいと思います。
介護に役立つ人体力学
力任せに持ち上げたりすると相手にも大きな負担となります。相手との距離や、ねじりなどを連動させ、負担が少なく、楽に移動させる方法などを解説。誤嚥防止の運動まで説明してくれています。文字よりも写真が多く、初心者でもすぐできます。
介護する人、される人がラクになるのを助ける教科書のような一冊。おすすめです。
自分自身に余裕がなくては介護は限界を迎える
このように、限界を迎える寸前だった私が「適当介護」の考え方と「ボディメカニクス」を知ることで、本当に救われました。
介護をするにあたり、自分でなんとかしなくては。自分しかいない。と考えてしまう人は多くいると思います。しかし、自分が体を壊してしまったり、介護うつになってしまっては元も子もありません。
今は在宅介護を支えるサービスが本当にたくさんあります。介護保険サービスだけでなく、自費のサービスであれば、「ラク」をすることもできます。
少しでも負担を減らして余裕のある介護をしたいと思ったら、しっかり情報収集し、使えるものは使う、人に頼る、経験者と話をする、こういったことが本当に大切だと感じています。
親の介護をしている人は意外とたくさんいますよ。ぜひ相談してみてくださいね。
キャプスには介護経験者、介護の専門職がたくさん在籍しています。質問や相談などお気軽にお問い合わせください。
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「家族介護」のきほん
アラジン(著)
「介護する人」に寄り添う、在宅介護の実用書!
20年以上にわたり、介護をしている家族の相談やサポートを続けているNPO法人の「アラジン」の蓄積された経験や豊富な相談事例をもとに、介護者の暮らしや人生に寄り添った、リアルな介護の乗り切り方を伝授します。
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