その36 なるようにはなる

 父が3泊4日の検査入院をした。

 新型コロナウイルス対策の影響で延期してもらっていたCT検査を、ようやく受けられる状況になったのだ。これまでは日帰りで受けていたが、カラダへの負担を少しでも軽くするために、大事をとって入院することをすすめられた。

 そのことを父に伝えると、「ほうか。まぁジタバタしても、なるようにしかならんわい」と悟ったように言った。まるで手術を受けるような口ぶりだ。「今回の入院は検査だけだからね」と念を押す私。「おう。どんな結果が出ても、なるようにしかならんし、なるようにはなる」と繰り返す父。

 禅問答のようだが、これは父が事あるごとに口にする言葉だ。思えば私も、この言葉には何度となく助けられてきた。先の見えないステイホームの日々も、「なるようにはなる」と自分に言い聞かせることで、いたずらに不安を募らせることはなかった。もしかしたら父自身も、声に出すことで自分に言い聞かせているのかもしれない。

 
 検査入院をする朝。父がお世話になっている老人ホームまで迎えに行くと、すぐに出かけられる前のめりの態勢で待ち構えていた。コロナ対策のための外出制限が長かったので、久しぶりの入院は、久しぶりの外泊でもある。そのせいか、父はそわそわしていた。

 検査だけとはいえ入院は入院。めずらしく緊張しているのだろうか…と思ったが、父のそわそわの原因は別にあった。お昼ごはんを一緒に食べてから入院する段取りにしていたので、どうやら久しぶりの外食が楽しみでそわそわしていたらしい。

 これなら、きっと大丈夫。がっつり食べる父の姿を見て、そう思った。

 検査の結果は、おかげさまで今すぐ治療が必要な段階ではなく、引き続き経緯観察となった。結果を聞くまでは、「93歳まで生きたんじゃけぇ充分じゃろう」と笑いながら言っていた父も、ほっとしたような顔をして深々と頭を下げた。

 「宿代を払うたら、コーヒーでも飲んで帰ろう」。入院費を宿代と言った父の言葉になんだかほっこりして、「旅行気分だね」と笑った。

 

 今回の入院では、父を通して『退院支援』という制度があることを知った。

 入院手続きを済ませて病室に案内された直後、父は看護師さんから質問を受けた。「退院支援を担当させていただきます。退院後は、いま入居されている施設に帰られたいですか?」

 そう訊かれた父は、戸惑ったような顔をして「はぁ、まぁ、そうですねぇ」と答えた。「ん?」と私も戸惑った。『退院支援』という言葉が何を意味しているのか、父も私もよくわからないまま質問に答えていたのだ。

 その場はそれで終わったけれど、気になったので調べてみた。すでにご存知の方も多いとは思うが、退院支援とは、入院前に本人と家族の意向を確認して、希望する退院先で必要なケアを受けられるように支援してもらえる制度だ。(ざっくりした説明ですみません)

 こんな支援があることを知った今は、とても心強いし、ありがたい。これまでも、たくさんの方々の助けがあってこそ、なるようになってきたのだと、あらためて気づかされた父の入院だった。


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profile


角田雅子(かくだ まさこ)
広島市在住。コピーライター、ラジオ番組の放送作家。広告制作会社を経てフリーランスに。備えあればと思い立ち、介護食士やホームヘルパーなどの資格を取得。座右の銘は「自分のきげんは自分でとろう」。
 

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