#2 「世界」を彫り続ける男たち

私たちが住む街に、すぐそばで、気になる表現活動をしている人がいます。その現場に行って取材をするのは、日本で一人しかいないアウトサイダー・キュレーターの櫛野展正。
今回取り上げるのは、「ちびっこ島 木彫館」館長であり作品もつくる横矢年夫さん。創作意欲あふれる横矢さんは、モノづくりの仲間と新たな構想にも着手しています。

高知県須崎市「ちびっこ島 木彫館」館長 横矢年夫

作品数1800点以上、
日本一の「ちびっこ島 木彫館」

 高知駅からレンタカーで走ること1時間。横浪半島を縦断する「横浪黒潮ライン」を通り抜け、明徳義塾中学・高等学校を過ぎると、広大な土地にたくさんの木彫りが並ぶ場所に辿り着く。ここが、今回の目的地、高知県須崎市にある「ちびっこ島 木彫館」だ。

 体育館のような建物に足を踏み入れると、大相撲の名力士や吉田茂、聖徳太子に美空ひばりなどの著名人を模した大きな木彫り作品が出迎えてくれる。館内には、イルカや犬に蟹など同じモチーフでつくられた木彫りの作品群が圧倒的な密度で展示されている。作品点数はおよそ1800点以上、こんなにも膨大な数の木彫りは今まで見たことがない。

天井からは魚が吊るされ、犬のトーテムポールが支柱代わりになっている

 「日本一は間違いない。世界一になるためにギネスブックに申請しよう思うちょる」。そう教えてくれたのが、この館の館長・横矢年夫(よこや・としお)さんだ。横矢さんは、1939年に高知県南国市で5人兄弟の次男として生まれた。父親は若い頃から神経症を患っていたため、母親が家計を支えた。横矢さんも学校から帰った後、母親の後をついてリヤカーに乗せた野菜や果物を売り歩いた。「食べるもんが無くって生活に追われるような時代やきに、それが当たり前だった」と当時を振り返る。

 中学校卒業後は、手に職をつけるため市内の日産自動車へ就職。整備士として5年6ヶ月働いた後は、土佐自動車学校で1年8ヶ月の間、自動車の構造や運転技術の指導教官として教鞭をとった。その後は、高知市相生町で日産自動車時代の先輩と修理工場「毎日自動車」を3年間の期限付きで開業。28歳のとき独立して、同町で「安全自動車」を起業した。「依頼を受けた車を夜のうちに修理したのが成功の秘訣よ」と話す。高知県内でも有数の企業に成長し、48歳からは現役を退き会長職へ就任した。それから横矢さんが没頭したのは趣味の世界だ。楽器・詩吟・彫刻・絵・書道と5つの趣味を10年間で習得。その後も独学で創作を続け、いまや南国市の市美術展に入選するほどの腕前になった。

 転機が訪れたのは17年前。明徳義塾のサッカー場建設に伴い、山が削られ平らになった土地を購入。そこに建てた小屋などで、木彫り作品の収集を続けていくうちに500体を超えてきたため、「どうせやるなら日本一になろう」と木彫り館の建設を決意。数年間の準備期間を経て、2016年8月に「ちびっこ島 木彫館」をオープンした。

仲間二人の作品も展示。
作品はまだまだ増えていく

 この館の特徴は、横矢さんの他に2人の作品が主に収められていることだ。ひとりは、静岡在住のチェーンソー作家、宮澤五郎さん。入り口に展示されていた立像をはじめ、左右の壁に掛けられた歴代総理大臣や横綱の木彫りマスクなど、どれもそっくりな作品が特徴だ。「いずれ命がのうなるけど、あれだけは残るわね」と横矢さんをモデルにした全身像は、入り口でお客さんを待ち構える。

宮澤さん作、本人と木彫りの横矢年夫さん

 もう1人が同県在住の山本祐市さんだ。シャツや靴を模した木彫り作品や、野外に並ぶ坂本龍馬や全国各地の「ゆるキャラ」をデフォルメした作品群など、木彫館に設置された大半の作品を手がけている。1952年生まれの山本さんは、高校卒業後、父親の跡を継いで漁師の道へ。高校時代はドラムを叩いたり、「ビー・ジーズ」に憧れてエレクトーンを始めたりした。その後も、バイクや鉄道模型、そして洋蘭など漁師の傍ら様々な趣味を楽しんできた。そんな山本さんは、1989年よりチェーンソーを手に独学で木彫り制作を開始。過去には「TVチャンピオン」(テレビ東京系列)にも出演し、それが縁で四万十町にある「海洋堂かっぱ館」には、これまで700体以上を制作・寄贈している。現在も、漁が終わった後は、地引き網の船置き場をアトリエに創作に励む日々。これまで5000体以上を制作してきた山本さんにとっては、大きな作品でも1日もかからずにつくってしまう。訪問時も「熊の楽団を」という横矢さんからの依頼に答えた作品を仕上げていた。山本さんがチェーンソーで奏でる音は、太平洋の波音が掻き消していく。

ゆるキャラの顔はめパネルも木彫り!!!
中は山本さん作の地蔵が。五百羅漢ではなく五百地蔵を目指しているそう。
山本祐市さん(左)と横矢年夫さん(右)

2018年春、
「昆虫館」オープンに向けて準備中

 横矢さんが制作したのは、およそ240点。イルカなどの木彫り作品は館内に彩りを添えている。右手が不自由なため、2人のように大作をつくることは出来ないが、木彫館の建物や小屋などは全て横矢さんの手によるものだ。「これまで18軒くらいつくったね。南国市の家も自分で建てたし、昼ごはん食べたら家を建てようるんを近くで見よったね」と全て独学で建築してきたというから驚きだ。

小さなイルカは横矢さん作だ

 「家内はあんまり賛成じゃなくてね、『年取ったら孫の世話をするんが一番幸せだ』と言うけど、僕はようせんのよ。やっぱりどんどんモノづくりをしていかんとね」と横矢さんの表現欲はまだまだ尽きることがない。そんな横矢さんの次の構想は、蝶々やトンボや鈴虫などが飛び回る「昆虫館」の建設だ。自然と同じ環境を再現するため、大学の先生とも連携し来春オープンに向けて準備を進めている。

 「ちびっこ島 木彫館」は、他にも塗装や研磨専門の人など全て横矢さんの同年代の人たちの手により支えられている。高齢になってもモノづくりを楽しむ人たちのその姿に、僕は何度も勇気付けられる。公共事業ではなく個人の手でこうした取り組みが行われていることが何より嬉しいし、老後も捨てたもんじゃないなと感じざるを得ない。横矢さんたちの次になる悪巧みを想像すると、僕も自然とにやけてしまうのである。

若き日の石原裕次郎
なぜかてっぺんにダルビッシュ有…

ちびっこ島 木彫館
高知県須崎市浦ノ内下中山247−1 
大人800円、大学生700円、高校生600円、中学生・小学生500円
問い合わせ TEL 090-1579-8237(横矢)


イベント情報<申込受付中>

クシノテラス アートスクール http://kushiterra.com/artschool
開催中~11.3(日)ピンクスキー個展「絵の中のわたし」& 常設展示室オープン
11.8(金) 西野亮廣 講演会@県民文化センターふくやま
12.1(日) びんごトリップトラベルvol.3 ゲスト:今立進(エレキコミック)
詳しくはこちら http://kushiterra.com/office/

2020年1月、ニューヨークで開催「アウトサイダー・アートフェア」初挑戦のクラウドファンディング開始!

 

profile


文・撮影
櫛野展正(くしの のぶまさ)
1976年生まれ。広島県在住。2000年より知的障害者福祉施設職員として働きながら、広島県福山市鞆の浦にある「鞆の津ミュージアム」 でキュレーターを担当。2016年4月よりアウトサイダー・アート専門ギャラリー「クシノテラス」オープンのため独立。社会の周縁で表現を行う人たちに焦点を当て、全国各地の取材を続けている。
住所:広島県福山市花園町2-5-20

書籍「アウトサイドで生きている」発売中
タバブックス1800円+税
日本唯一のアウトサイダー・キュレーターが伴走する街の表現者たち。
話題の自撮りおばあちゃん、武装ラブライバー、昆虫の死骸で観音像をつくった男、仮面だらけの謎の館、雑草を刈りアートにする路上生活者、食べたものを記録し続ける男......18 人の表現者たちの驚異のアートと、豊かな生きざまを追ったドキュメンタリー。

 

書籍「アウトサイド・ジャパン 日本のアウトサイダー・アート」
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