その58 月に一度の便りが頼り

 父の近況を知るために、頼りにしているものがある。父がお世話になっているホームから、月に一度、私のもとに届く便りだ。

 そこには、父の日常を垣間見ることができる何枚かの写真と、スタッフの方の気づきが記されている。「体調を崩されることなく、元気に過ごされております」「散髪をされ、さっぱりしたと笑顔で話されておりました」「足の筋力が衰えないよう、機能訓練リハビリや体操を続けておられます」「おやつ作りに参加され、美味しいと喜んでおられました」。

 年明けからずーっと、コロナ対策の面会禁止が続いているなか、この便りがどれほどありがたいか。A4の用紙一枚にまとめられた父の近況を、何度も何度も見返している。「穴があくほど」というのは、このことだろう。

 コロナ前、父と自由に会えていたときも、月に一度の便りは届いていた。ぱっと見て、さっと読んで、気になることがなければクリアファイルに収める。もちろん、ありがたいとは思っていたが、ファイルを見返すことはほとんどなかった。

 そう。リアルな父の顔をいつでも見ることができて、リアルな父の話をいつでも聞くことができたから。それがコロナのせいであたり前ではなくなり、父の無事を知らせてくれるA4の便りが、心の底から待ち遠しくなったのだ。

 94歳の父は耳がかなり遠く、電話で会話をするのは難しい。メールのやりとりもできない。コロナ禍に私が書いた手紙の返事をもらったのは、一度きりだ。となると、面会禁止が解除されるまでは、スタッフの方の便りが心の頼りなのである。

 そういえば、筆まめだった父が、手紙をあまり書かなくなったのは、いつ頃からだろう。

 毎年どっさり書いていた年賀状を卒業したのが91歳のとき。年賀状をもらった相手だけに、寒中見舞いを出すことにして枚数を減らしていった。それもやめたのは、年末に骨折して病院で年を越した93歳のときだ。父の年齢からすると、よく書き続けたほうだと思うが、どうやらそのあたりから筆をとるのが億劫になってしまったようだ。

 「この漢字は、これでええんかいのう。書いたんじゃが、間違っとるような気がする・・・」と、大きな活字の国語辞典をシャカシャカめくっていた父の姿が懐かしい。なかなか思い出せない漢字が増えてきたことも、手紙を書かなくなった理由の一つなのだろうか。

 そういう私も、簡単なはずの漢字が書けなくて、情けない思いをすることが増えた。パソコンで文字を打つほうが、直筆で文字を書くよりもはるかに多くなったからだ。と、自分に言い訳をしているが、このままだと父の年齢よりもずっと早く、筆をとることが億劫になりそうだ。

 筆不精になった父と娘はきっと、「便りのないのは良い便り」ということわざに乗っかろうとするだろう。けれど、やっぱり便りはあったほうが安心だ。ホームから届く一枚が、それを証明してくれている。

 そして、もっともっと安心なのは、顔を合わせて話をすること。それができるようになる日はきっと来るから、今は大笑いしている父の写真を穴があくほど眺めている。

【次回更新 その59】
2022年7月3週目(7月11日~15日)予定

   

profile


角田雅子(かくだ まさこ)
広島市在住。コピーライター、ラジオ番組の放送作家。広告制作会社を経てフリーランスに。備えあればと思い立ち、介護食士やホームヘルパーなどの資格を取得。座右の銘は「自分のきげんは自分でとろう」。
 

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