その3 カードでピッと墓参り

 父が墓じまいをしてくれた。2年前のことだ。

 わが家のお墓は父の生まれ故郷にあった。クルマが一台どうにか通れるくらいの砂利道をのぼって、猫のひたいほどの駐車場へ。そこから、人間が一人どうにか歩けるくらいの鬱蒼とした山道をのぼった先に墓所がある。夏はヤブ蚊が待ってましたとばかりに襲いかかり、冬は雪に足をとられそうになりながらの墓参り。ちょっとしたアドベンチャーだ。過疎化が進む地域の墓所ということもあり、年々荒れ放題の無縁墓も目立つようになっていた。

 今から19年前、68歳で旅立った母も、そこに眠っていた。と言っても、そこには眠っていなかったような気がする。街なかのデパートが大好きだった母にとっては、決して居心地のいい場所とは思えない。だから、さっさと千の風になって、気ままなお出かけを楽しんでいることだろう。でしょ?お母さん。

 「あの墓は、いつかなんとかせんといけんのう」と、折にふれて父はつぶやいていた。50代になった私も、「いつかじゃなくて、なるべく早くなんとかして欲しい」と切実に思うようになっていた。わが家には、私の次にお墓を守ってくれる世代がいない。私の代に守りきる自信もない。荒れ放題の無縁墓は、決して他人ごとではないのだ。

 いつかいつかと先延ばしにしていては、ラチがあかない。「あの墓は…」と、父がいつものようにつぶやいたのをきっかけに、話を切り出してみた。「広島市内で、どこかいいところがないか探してみようか?」「おお、そうじゃの」「お墓を移転するんじゃなくて、永代供養をしてもらえるところでいいよね?」「おお、それでええ、そのほうがええ」。

 さらりと口にしてみた永代供養という提案を、父はあっさり賛成してくれた。ほっとした。わが家の将来を見越しての二つ返事だったのだろう。

 そうなると、話は早い。宗派や宗旨を問わずに受け入れてもらえる最新式の納骨堂を下見して、後日、父と一緒に見学した。モダンな建物に納められた遺骨はコンピュータで管理されていて、参拝スペースでお参りカードをタッチすると、家名が書かれた納骨箱が自動的に出てくるシステムになっている。それを見た父は「カードで墓参りかぁ!?」と驚いていたが、「冷暖房完備の墓じゃの。こりゃあ、ええわ」と笑った。父は暑がりで寒がりなのだ。

 見学したその日に「よし!ここに決めよう」とGOサインを出した父は、早速、故郷の墓じまいに動いてくれた。祖父母や母の遺骨を移すには、どこにどんな書類を提出して、誰に何を承諾してもらえばいいのか。その段取りはすべて納骨堂の事務局で教えてもらい、遺骨を移したあとの墓石の撤去まで、父の差配でなんとか無事にやり遂げることができた。

 「これでもう安心じゃの」と、大きな肩の荷をひとつ降ろしたような顔で言う父に、私は何度も「ありがとね」と頭を下げた。

 それからは、カードでピッとお参りをするたびに、「わしが死んだら葬式はせんでええから、ここに入れといてくれ。暑うもない、寒うもない。快適じゃ」と笑っている。この先、ここに入る順番を守ることが、私にできる一番の親孝行なのだろうと、あらためて思う。

 だけど、お父さん。冷暖房完備のお墓ライフは、まだまだ先の話ですよ。

   

profile


角田雅子(かくだ まさこ)
広島市在住。コピーライター、ラジオ番組の放送作家。広告制作会社を経てフリーランスに。備えあればと思い立ち、介護食士やホームヘルパーなどの資格を取得。座右の銘は「自分のきげんは自分でとろう」。
 

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