加齢や環境変化とともに増加してくる「老人性うつ病」。
近年では、西洋医学の投薬治療などに加えて、東洋医学的なアプローチが功を奏している症例も数多く見られています。
今回はそのような東洋医学や漢方を用いた効果的な「うつ病改善法」をご紹介していきますので、ぜひ参考になさってくださいね。
老人性うつ病の症状が東洋医学で楽になる?
老人性うつ病の症状は東洋医学で楽になるのでしょうか?
東洋医学からみる「うつ病」とは
現代の医学において、こういったうつ病などのメンタル系疾患は「脳の病」として捉えられ、投薬やカウンセリングなどの治療が施されています。
一方で東洋医学には、「脳」という明確な概念はありません。
実は、その代わりに「体の中の各臓器がそれぞれに ‘脳のような作用’ を少しずつ分担している」という考え方がなされています。
また、人の気持ちや感情(=「五志」)も、同じように、それぞれの感情に対応する各臓器から発生しているとされています。
東洋医学の基本概念では「天人合一思想」に基づき、人の体は世界の全てを表す「五行(木火土金水)」という五つのエレメントから成り立つものとされています。
その「木・火・土・金・水」に対応するものとして、臓器ではそれぞれ「五臓 / 肝・心・脾・肺・腎」が、感情では「五志 / 怒・喜・思・憂・恐」が割り振られています。
※その他の要素も知りたい方は『五行色体表』でご検索ください。
東洋医学の「感情」の捉え方
■怒りの感情に関して
前述のとおり、東洋医学では感情(五志)を臓器に配当して考えます。
例えば「怒り」という感情に対応している臓器は上の相関図からも分かるとおり「肝」。この肝から、怒りの感情が生まれるとされています。
そしてその肝に気や血が足りない、ないしはうまく巡っていないと「怒り」の感情が健全に発せられず、暴発状態になってしまうと考えられています。
(余談ですが、肝や怒は元々「木」の対応です。木々が伸びはじめる春先にこういった症状が出やすいともされています。)
ですので、怒りやイライラ、強い他責や自責など、「怒」の感情がある際は「肝」に対応する体の経絡(ツボが繋がったラインのようなもの)を探って異常を見つけたり、その肝の異常に見合った鍼灸や漢方で対処を行って、気持ちを落ち着けていきます。
■鬱々とした落ち込みに関して
同様に、「思」の感情を生み出す臓器である「脾」の働きに異常が起こると、「鬱々として同じことを出口も無くぐるぐると思い悩み続ける」という状態になるといわれます。
ですのでそのような「思」の感情が出た時は、「脾」の経絡を調べて、異常への対処を行います。
※脾とは胃とセットで働く臓器で、食物の消化吸収に関する働きを担っているとされています。気や血など全身へ巡るエネルギーを作り出すための大元の器官ですので、ここに異常が起こると全身に影響してしまうと考えられています。
◎実際の臨床の現場では、経絡や腹部など体を直接触って異常を見つける「切診(せっしん)」に加えて、本人の顔や舌の色・歩き方などを見る「望診(ぼうしん)」、本人が放つ音や匂いなどをよく聞く「聞診(ぶんしん)」、家族や本人に状態を尋ねる「問診(もんしん)」など『四診(ししん)』と呼ばれるチェックを行い、総合的に治療方針を決めていきます。
東洋医学によるうつ病の具体的な対策
前項のように、東洋医学では脳の機能や色々な感情などを「それぞれの臓器から生まれる」と解釈し、「四診」を通して総合的に対処法を決定します。
ですので、ひと口に「うつ病」といっても、東洋医学的には「うつ病といえばこれ!」という決まったお薬や治療があるわけでは無く、その方の体質や生活習慣、お悩みの症状や今の気持ちに合わせて、処方が決められていきます。
ただし、共通する傾向はもちろんありますので、以下ではより具体的な「うつ病」に対する一般的な対応をお伝えしていきます。
漢方を用いたうつ病への対処法
前述のとおり、うつ病で起こりやすい「気分の落ち込み」は脾の異常、逆に「怒りっぽくなる、イライラが抑えられない」などは肝の異常として対処していきます。
しかし、それら臓器に異常が出る前段階で、単純に「体の気や血が少し減ってしまったり、巡りが悪くなって滞りが起こると、気分が塞いだり鬱々としてくる」という「全体的な気の滞り」でも同様の症状が発生する事がありますので、まずはその対処法からお伝えしていきます。
●全体的な「気滞」の症状対策
「生活が単調でお出かけや運動が少ない」など、活動の低下が見て取れる場合、一部の臓器ではなく全体的な気の滞りによる不調の場合がありますので、まず以下のような生活を心がけて頂くのがおすすめです。
・無理のない範囲から運動を増やしてもらう
・誰かと少し電話やお喋りをして気の発散を行う
・日中は陽に当たり外の空気をしっかり吸う
このように少し生活を活動的に行なってもらうと、それだけでも気の巡りがよくなり、胸が詰まったような気分の重さや体の重さが楽になることがあります。
これらの不調は「気滞」と呼ばれる状態で、「気分の落ち込み」など感情的な不具合のほかに、「食欲が出ない、喉が詰まるような不快な感覚、お腹が張って苦しい、ゲップやおならがよく出る」など身体的な症状も併せて出てきます。
そういった症状があればまずは一緒に「少し動く」こと。
(勿論、無理をしすぎない、させすぎないようにご注意くださいね。)
また、漢方では
・半夏厚朴湯(喉がつかえるかた)
・香蘇散(お腹が張るかた)
・六君子湯(胃がつかえて食欲が出ないかた)
などで、気の巡りを手助けしてあげるとさらに症状が軽快しやすいです。
体質や症状に合ったものをご選択ください。
■うつ病でよく使われる漢方■
上記の漢方に加えて、一般的にうつ病で使われる漢方は更に数種類あり、本人の症状や気持ちによって処方が分けられています。
●鬱々、不安感、落ち込みなどダウナー系の症状に
こういった沈んでしまうタイプのうつ病の方には、前述の気滞の漢方に加えて
・帰脾湯(意欲低下)
・加味帰脾湯(ふらつきや不安感がより強い場合に)
をよく用います。
「脾」と名が付いているとおり、脾や胃を元気にして気や血を増やし、しぼんだ体と心に力を与えて「思」の感情を立て直すような漢方です。
●焦燥感やイライラ、いてもたってもいられないような強い不安感や不眠の状態に
このような亢進系の強い症状や気持ちが出ている場合は、
・柴胡加竜骨牡蛎湯(体力のあるかた向け)
・抑肝散陳皮半夏(胃が弱いかた向け)
・四逆散(そもそも胃に不調があり、突然手足の冷えを感じるようなかた向け)
などを使います。
どれも「柴胡」という、肝の気の暴発を落ち着けてくれる生薬が含まれており、肝の気が落ち着くことで「怒」の感情も落ち着き、心身が穏やかになることで「不眠」などの不調も解消されやすくなるというものです。
●体が弱ってしまってやる気も意欲も出ない、すぐに疲れるなどの状態に
心も体も弱ってしまいすっかり意欲や気力が落ちている状態の方には
・補中益気湯
・十全大補湯(寝たきりのように弱っておられるかた向け)
などを使います。
「補う」という名がつくとおり、内臓に力を与え、更に自身でもエネルギーを生み出せるような体に導く漢方です。
少し動くとすぐ疲れてしまうような方にも向いています。
●「老人性うつ病」に大事な漢方
老人性うつ病の場合には、一般的なうつ病に「加齢による弱り」が加わり、更に状態に悪影響を及ぼしやすくなります。
加齢はどうしようもないことではありますが、漢方で補うことができるので参考になさってください。
東洋医学では加齢による弱りを、五臓のなかの「腎」の弱りだと考えます。
ですので、この腎に力を与える
・六味丸
・八味地黄丸(冷えが強いかた向け)
などの漢方を恒常的に用いて、加齢による不調の影響を少しでも減らしておくと、治療がしやすくなると考えられます。
前述の漢方に加えて、これらの漢方で生きる力の底上げを行うのもおすすめです。
まとめ
老人性うつ病に関する東洋医学的な考え方や対処法を見てきました。
繰り返しになりますが、「うつ病」といってもその症状は人により様々です。
苦しんでいるご本人が少しでも早く楽な状態に近づけるよう、その人に合った処方を専門家に見立てて頂くことをお勧めします。
また、漢方は直接的な改善だけでなく、投薬など西洋医学的な対処法からの副作用(口の渇きや吐き気など)を穏やかにすることができます。ご本人の状態をよく見てよく話を聞いて、ぜひ解決に繋げていただければと思います。
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