その61 もしもラジオで話せたら

 父がマイクを向けられたら、どんな話をするだろう。

 あるテレビ番組を見ながら、ふとそう思った。不定期に放送されている『病院ラジオ』という番組だ。お笑い芸人のサンドウィッチマンさんが、日本各地の病院を訪れてラジオブースを開設し、患者さんやご家族から話を聞いてリクエスト曲をかける。そんなテレビ番組の最新作が、高齢者医療専門病院編だった。

 これまでに放送された子ども病院やリハビリ病院、依存症治療病院などの回もすべて見てきた。どれも心の奥のほうに響く言葉を届けてくれたが、今回はよりいっそう身近に感じられる内容だった。

 デイサービスに行きたくない認知症のお母さんと、行ってほしい娘さん。お母さんに理由を訊ねると、「年寄りの仲間に入りたくない」という言葉が返ってきた。「入ってるんですけどね。年齢的にはね」とサンドウィッチマンさんがツッコんで、みんな大笑い。80歳のお母さんも笑っている。そうそう、これこれ。私の好きな『病院ラジオ』だ。

 病気を抱えながらマイクの前に座ってくれた、患者さんたちの気持ちにやさしく寄り添って、どんな話も笑いに変える。その場の空気がふわっとやわらぐ、笑いのチカラはやっぱりすごい。


 うちの父は95歳。今は有料老人ホームに入居しているが、私と一緒に暮らしているときはデイサービスに通っていた。それがご縁で、同じ施設内のホームにお世話になることになったのだ。

 父の場合は、ケアマネジャーさんに勧められて「まあ行ってみるか」という軽いノリで行きはじめた。嫌がる素振りは見せなかったが、最初に一日体験をした施設から帰ってきたとき、父はこう言った。「年寄りばっかりじゃ。何もせんでじーっとしとる人もおる。また行きたい場所じゃあないの」。今思えば、あのときは父も、年寄り扱いされることに抵抗があったのかもしれない。

 「もう1か所だけ、別のところに行ってみる?」と少しだけ背中を押してみた。そうして2番目に体験したデイサービスで、父には囲碁や麻雀を楽しむお仲間ができたのだ。もちろん、スタッフの皆さんが笑顔で親身に対応してくださることも、父が足を運びたくなる大きな理由だったに違いない。「人」との出会いが、父に新しい楽しみをもたらしてくれたのだ。

 慣れるまでは週1回からスタートするつもりだったが、いきなり週3回通うことに決めたのも父自身だった。いそいそと出かける父の姿を見て、わが身に置き換えてみた。私だったらどうするだろう?すんなりデイサービスに行くだろうか。

 いや、『病院ラジオ』に出演されたお母さんのように、行きたくないと思うだろうな。そう言いつつも重い腰をあげてみたら、父のような出会いがあるかもしれない、とも思う。

 もしもサンドウィッチマンさんが父にインタビューしてくれたら、家族には言わないような心の声がポロリとこぼれそうな気がする。それを笑いに変えるところまで、父がひとりツッコミでやってしまいそうだけれど。

 新型コロナウイルスの第7波で、父がお世話になっているホームは、お盆前からまたまた面会禁止になった。会えない日々のなか『病院ラジオ・うちのお父さん編』の妄想で、しばしほっこりさせてもらったのである。

【次回更新 その62】
2022年10月3週目(10月17日~21日)予定

   

profile


角田雅子(かくだ まさこ)
広島市在住。コピーライター、ラジオ番組の放送作家。広告制作会社を経てフリーランスに。備えあればと思い立ち、介護食士やホームヘルパーなどの資格を取得。座右の銘は「自分のきげんは自分でとろう」。
 

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