その53 GO to うちで年越し

父ときどき爺

 父といっしょに、わが家で年を越すのは2年ぶりになる。

 この原稿を書いている今はまだ、2021年の師走半ば。新型コロナウイルスの新規感染者数は落ち着きを見せ、父がお世話になっている老人ホームでも、年末年始の帰宅にGOサインが出ている。このまま何ごともなく、年の瀬を迎えられるよう祈るばかりだ。

 去年の今ごろ、父は病院のベッドにいた。明け方、トイレに行こうとしてコケてしまい、大腿骨を骨折したのだ。コロナの感染防止対策のため、家族でも面会は禁止。顔を合わせることができないまま、父は病院で年を越した。

 あれから一年。春先に退院した父は、伝い歩きをしながら一人でトイレに行けるようになっている。初夏に迎えた94歳の誕生日には、「百までは生きられそうじゃ」と笑っていた。骨折したことなどケロリと忘れたように。

 いや、痛みはあると思うが、リハビリも日常生活の一部にして、体調と折り合いをつけながら日々を送っているのだろう。

 
 さて、骨折してから初めてわが家で寝泊まりする父を、どう迎えたらいいのか。何はともあれベッドを用意しなくては。ラクに起き上がることができる介護用のベッドだ。

 いっしょに暮らしていたときは、「布団のほうがええ」というのが父のリクエストだった。ただし、起き上がるたびに「よっ、こら、しょい!」とひと苦労だったので、ケアマネジャーさんに相談して、布団の横に頑丈な手すりを置いていた。

 その手すりは、介護保険を利用してレンタルしたものだ。今回はベッドをレンタルすることにしたが、介護保険は利用できないので自費になる。なぜなら、父がホームに入居した時点で、在宅介護ではなくなったからだ。

 実は、そういうルールになっていることを、必要に迫られるまでよく知らなかった。「なぜなの?」と不思議に思うこともあるけれど、高齢者の福祉制度については、父を通していろいろ勉強させてもらっている。

 というワケで、電動のリクライニングベッドとサイドレール(ベッドに装着する手すり)を自費でレンタルすることにした。以前、私が腰を痛めて自分のベッドからなかなか起き上がれなくなったとき、「自動で起こしてくれたらいいのに」と夢に見るほど欲しかったベッドでもある。

 そして、もう一つ。ホームの介護スタッフの方に相談して、トイレに設置する手すりもレンタルの予約に加えた。父が入居している部屋のトイレには、座ったり立ち上がったりするときの支えになる手すりがある。それを使い慣れている父には、やはり手すりはあったほうが安心だ。

 これで父を迎える準備はOK!と言いたいところだが、問題はまだ残っている。わが家のトイレには段差があるのだ。こればかりは、私が付き添って危険を回避するしかない。ホームのトイレは段差が全くないので、わが家のトイレに段差があることなど、父はきっと忘れてしまっているだろう。

 それも含め、年末年始の帰宅について、父には事前に「不安なことはない?」と訊いてみた。すると「成人男性が歩けるところは、わしも歩ける。大丈夫じゃ」と即答だった。壁のカレンダーを見上げながら「この日からじゃの」と楽しみにしてくれている。

 それまで、くれぐれもお父さんがコケませんように。コロナも落ち着いてくれていますように。と、私は母の写真に向かって毎朝手を合わせている。

【次回更新 その54】
2022年2月3週目(2月14日~18日)予定

投稿者プロフィール

角田雅子(かくだまさこ)
角田雅子(かくだまさこ)
広島市在住。コピーライター、ラジオ番組の放送作家。広告制作を経てフリーランスに。備えあればと思い立ち、介護食士やホームヘルパーなどの資格を取得。座右の銘は「自分のきげんは自分でとろう」

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