その42 夢でもいいから

 父の夢を見た。入院している父との面会が叶った夢だ。

 昨年の師走にコケてしまった父は、大腿骨を骨折して手術を受け、病院で新しい年を迎えた。父のいないお正月に、ふと頭に浮かんだのが「めでたさも中くらいなりおらが春」という小林一茶の句だった。

 私がつくるフツーのお雑煮を、うまいうまいと大げさに褒めてくれる父がいないと、つくり甲斐がなくてつまらない。病院でどんなお正月を過ごしているのだろうと、案じながら食べるのは味気なく、初春のめでたさも中くらいだったのだ。

 手術を無事に終えた父は、ひと月経った今も入院している。経過は順調で、リハビリ病棟に移って歩けるように頑張っているらしい。厳重なコロナ対策で面会禁止が続いているため、「らしい」としか言えないのがもどかしいけれど、こればかりは致し方ない。

 コロナ対策で大切な人と会うことが叶わず、同じような思いをしている人は日本中、いや世界中にたくさんいるだろう。私もくじけてなんかいられない。こんな風に、見知らぬ誰かから前を向くチカラをもらえるのが、コロナ禍を共に生きていくということかもしれない。

 

 看護師さんからの情報によると、父は早々に車椅子の自走ができるようになり、自分でトイレに行こうと伝い歩きもはじめたそうだ。日常生活に必要な筋肉がつくまでには時間がかかるようだが、93歳で足を骨折したあとのリハビリとしては、わが父ながら上出来ではないだろうか。

 そして、何より私が安心したのは、「ごはんは毎日しっかり食べていらっしゃいますよ」という看護師さんの言葉だった。父の前向きなエネルギーの源は、朝昼晩きっちり食べることだ。入院生活でも食欲が落ちていないことを知って、心底ほっとした。

 コロナ禍における医療現場の大変さを思い、遠慮がちにリハビリの様子を尋ねたのだが、看護師さんのほうから食事のことも教えてくださった。どんなに忙しくても親身になって、ひと言の心づかいをかけていただいたことが、本当にありがたくて目頭が熱くなった。そして、この病院でお世話になっていれば、父は大丈夫だと確信した。

 首都圏で2度目の緊急事態宣言が出てからは更に、父を守ってもらえてありがたいという気持ちが、日に日に強くなっている。

 私が見た夢の中で、父は杖も持たずに歩き回っていた。退院祝いの食事は、うなぎにするか天ぷらにするか、うれしそうに迷っていた。コケる前と変わらない笑顔を見て、私も笑っていた。すべて正夢になることを願いながら、「父も同じ夢を見てくれていたらいいなぁ」と思っている。

【次回更新 その43】
2021年3月3週目(3月15日~19日)予定

   

profile


角田雅子(かくだ まさこ)
広島市在住。コピーライター、ラジオ番組の放送作家。広告制作会社を経てフリーランスに。備えあればと思い立ち、介護食士やホームヘルパーなどの資格を取得。座右の銘は「自分のきげんは自分でとろう」。
 

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