高齢者が陥りやすい「老人性うつ病」の原因と対処法を詳しくご紹介

介護の豆知識

このところ集中力や記憶力が随分落ちてきた気がして心配だ、気持ちもなんだか鬱々とする。

または周囲の高齢者がそういった不調や悲観的な話ばかりを口にする…そのようなご経験はありませんか?

私の周りにも、あまり人と関わることをせず、「もういつお迎えが来てもいい」などネガティブな発言を口癖のように話される高齢者が幾人かおられます。

厚生労働省の資料によると、中年以降から老年期にかけてはそういった気持ちの落ち込みや身体の不調などが増し、うつ病を発症しやすい時期となるそう。

また65歳以上のうつ病罹患者は50万人を超えると想定されていますが、65歳以上の方で実際にうつ病の治療を受けている人は約半数の27万8千人のみ。
病気に気づかず、生きづらさを抱えたまま暮らす高齢者やその周囲の方が沢山おられると予想されています。

今回はそういった高齢者の心と体の不調と、それらを健やかに保つ対策をご紹介していきます。

高齢者のうつ病「老人性うつ病」とは

「老年期」や「高齢者」などと表される65歳以上の方がかかるうつ病は、「老人性うつ病」と呼ばれています。

これは正式な病名ではなく、年齢や発症背景の違いなどで大まかに別の年齢層と区別するため付けられた名称です。

老人性うつ病の症状

老人性うつ病といっても、症状自体は一般的なうつ病と大きな差はありません。

一般的に「うつ病」とは、以下の症状項目の中で、「1もしくは2を含む合計5つ以上が当てはまること」「それが2週間以上続いていること」が診断基準となっています。(「DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル」による)

うつ病の症状診断項目リスト

  1. 気分が落ち込む
    または
  2. 興味がわかない/喜べない
    という症状のいずれかがありそのうえで、
  3. 著しい体重減少/増加、もしくは食欲の減退/増加
  4. 不眠または睡眠過多
  5. 焦って落ち着かずじっとしていられない、もしくは逆に動けない
  6. 疲れやすい、気力が出ない
  7. 自分に価値がない、自分が悪いなど自責傾向がある
  8. 物事に集中できない、決定できない
  9. 死についてを繰り返し考えてしまう

高齢者の場合は、上記のような心身症状を確認したうえで、「CT検査・MRI検査」や「認知症検査(脳の血流や認知機能の質問テスト)」などを経て、別の病気との鑑別を行い本診断が下されます。

高齢者のうつ病の初期症状や受診に関する注意点

1.’うつ病’の一般的なイメージと実際の症状との乖離

受診を行う前には、まず「うつ病なのかもしれない…」という気づきが必要となります。

その際に注意したいのが、「うつ病」の一般的なイメージと実際の症状との開きについて。

うつ病と聞くと一般的には

・全体的に活力が落ち、痩せていく
・主に心理面に症状が出る

というイメージがありますが、実際は上記の症状診断項目のように

・じっとしていられない
・食欲や体重が増えすぎる

など、心身が過活動に傾いてしまう状態がしばしば起こります。

2.高齢者特有のポイント!心理面より身体面の不調や異常が出やすい

さらに、高齢者のうつ病では、心理面での不調(落ち込みなど)よりも、身体面の不調(頭痛やめまい耳鳴りなど)が表に出やすいというデータもあります。(厚生労働省 HP『高齢者のうつについて』)

なかでも多い訴えが、「体の痛み、一部分のしびれ、胃腸の不快感や異常」など。

そのため、たとえうつ病による不調があっても、自他ともに「加齢で体が弱っただけ、お天気についていけないだけ、持病が悪くなっただけ、年のせいで融通が利かなくなってきた」などと思い込みやすくなります。

その結果、受診が遅れて長い間ご本人や周りの方が苦しむという状況にもなりやすいので、事前の理解や注意が必要です。

また、それらの体調不良に付随した心配事(「ガンかもしれない…」など)を口にし始める場合もあります。
うつ病は「心の病、心の風邪」と表現されることが多いですが、実際は身体症状も多く発現する「脳の病」といえますので、ご注意ください。

老人性うつの原因

老人性うつ病を引き起こす原因としては、大きく分けて「環境的な要因」「身体的な要因」「心理的な要因」の3点が挙げられます。

いずれかひとつがきっかけとなる事もあれば、複合的に関連し合って病が誘発される場合もあります。

1.老人性うつ病の「環境的な要因」

本人を取り巻く環境の変化やその環境内で生じた問題によって起こるものです。具体的には以下のような事柄です。

・定年して在宅時間が増えたがやる事がない、目標や目的の喪失
・パートナーが定年し在宅時間が増えたことによる喧嘩やストレスの増加
・子どもの独立や結婚から起こる役割の消失
・長引く家庭内やご近所間との問題
・引越しや同居、施設入居など、住み慣れた環境が変わってしまった  など

2.老人性うつ病の「身体的な要因」

身体的な側面からうつ病が引き起こされる場合、具体的には以下のようなものが挙げられます。

・加齢に伴う心肺機能や血流低下から起こる脳機能の弱り
・食事量減少からの栄養不足
・持病からの身体的負担
・老々介護からの身体的負担
・脳梗塞などで脳の小さな血管が詰まり、抑うつや認知機能低下が発現
(「血管性うつ病」とも)
・運動量、活動量や刺激量の減少による脳の働きの低下  など

3.老人性うつ病の「心理的な要因」

老年期はどうしても悲しみに触れる機会が増えてしまいがち。そういった心の面からうつ病が引き起こされる具体的な例には、以下のようなものがあります。

・家族や友人など大切な人との別れ、悲しみ(ペットなども含む)
・老いや金銭問題に対する不安
・環境的要因や身体的要因で「これまで出来ていた事が出来なくなってしまったこと」への落ち込みや苛立ち
・話し相手や理解者が減ってしまった孤独
・元々の性格(繊細、気にしがち、内向的、主張ができない)
・負の記憶の蓄積  など

老人性うつ病の治療と対策

上記のように、様々な要因が引き金となる「老人性うつ病」。

その治療や対策には以下のような方法がとられています。

・薬物療法

→向精神薬や睡眠薬など、お薬を使った治療法です。安定剤などは内科でも処方されますが、うつ病が疑われる場合は心療内科など専門医の受診をお勧めします。

また、高齢者は持病のお薬との飲み合わせも大事なので、受診の際はお薬手帳などを持参してしっかり服薬管理を行います。

・カウンセリング、認知行動療法

→今の気持ちや心のしこりを話し、カウンセラーに傾聴を行なってもらうことで安心感を増やします。またその際、歪んだ認知があれば、考え方や認識を少しずつ過ごしやすい方へと変えていくお手伝いを行います。

・環境の再調整

→本人やご家族、ケアマネージャーさんなどと相談し、問題となっている環境要因を取り除いたり、新たなグループや心地よい環境に溶け込む手助けをしていきます。

・入院

→暴力的な言動や自傷などが起こった、もしくは起こりそうな場合、精神科へ入院という措置もとられます。何か普段と違う様子があれば、早めに医師にご相談ください。

・その他 電気療法など(TMS治療・修正型電気けいれん法)

→日本では馴染みが薄いですが欧米では比較的進んでいる治療法で、アメリカでは年間約10万人が治療を受けています。

頭部へ電気刺激により脳内に良い変化を起こすというもので、うつの症状がひどい場合や服薬の効果が薄い場合、また副作用がひどく服薬できない場合などに用いられます。(病院ごとに値段や対応に差があるため、事前によくお調べになって行なってください。)

高齢者が抗うつ剤などの薬物療法を受ける際の注意点

すぐに取り入れやすいのは薬物療法ですが、高齢者の場合「効きがあまり良くない」という傾向も見られます。

そのためお薬を増やすと、今度は副作用でふらつきや眠気が強く出てしまい、転倒や傾眠傾向の増加など更なる悪循環の原因となってしまう場合も…。

更に、お薬の利用法の説明不十分や失念、または「もう不要だ」との自己判断などで急に服薬をやめてしまい、様々な不快症状(離脱症状)が一度に出てしまうという危険性もあります。

(随分昔の話ですが、うちの祖父もかかりつけ内科医の「もう薬やめていいよ」という指導で急に服薬を止めてしまい、その後一気に酷い落ち込みや不安感が出てパニックに陥ってしまった事があります。向精神薬の利用を停止する際は、少しずつ量を減らすなど「段階的な減薬」が必要な場合が多いですのでお気をつけください。)

ネガティブなお話をたくさんお伝えしてしまいましたが、体に合えばお薬はとても助けになりますので、用法用量を守って、なるべく周囲の方にもよくよく様子を見てもらいながら使用されることをお勧めします。

まとめ -老人性うつ病のケアや予防に大切なこと-

これまで見てきたように、老人性うつでは環境や体の機能、心の面など様々な事が要因となり起こっています。

その中でも大事なキーワードとなるのが「孤独感」。

様々な背景により、高齢者は自分のできる事が減ったり、環境が変わったり、単純に気軽なおしゃべりや小さなお願い事をする相手がいなくなるなど、これまでの「頼り・頼られる関係」を失ってしまいがちです。

その結果、自分という存在をとても小さく感じ、孤独感に苛まれやすくなります。

ですので

・なるべく年齢を理由に物事をあきらめない
・趣味は極力手放さない
・地域の交流会や体操教室などグループ活動に参加する
・家族や友人と連絡を取りひとりぼっちにならない

など、社会的な関わりを断たないよう(断たせないよう)心がけて頂きたいです。

もしも老人性うつ病になってしまったら

また、実際にうつ病になってしまった場合も、周りが過度に気を使いすぎるのでなく、「頼れる部分は頼る」など「1人の人間として対等に接する」ことを忘れない事が大切です。

本人の負担になりすぎないレベルで何らかの役割をお願いする事は、社会との関係や自信を取り戻すきっかけにもなりやすいです。

もちろん、バランスの良い食事や運動、生活リズムの維持も大切。
それらを心がけていただくと、改善や予防にも繋がります。

いろいろな取り組みで、少しでも心身が自由な老年期をお送りいただきたいと思います。

関連記事

特集記事

コメント

この記事へのトラックバックはありません。

TOP