父の部屋の家具を、急いで取り替えた。
理由は、低い位置にある引き出しを、しゃがんだ姿勢で使うのが難しくなったからだ。父がお世話になっている老人ホームのスタッフの方から、「コケそうで危ない」という話を聞いて、そのことに初めて気づいた。
ホームに入居することになったとき、父がそれまで使っていたハンガーラックと同じものを用意した。下着を除く衣類は、ハンガーにかけて収納する習慣がついていたので、わが家に近い生活環境にしようと思ったのだ。
そして、ほかの家具は、なるべく部屋が広く見えるように低めのものを揃えた。万が一、地震が起こっても倒れにくいという私なりの配慮もあった。圧迫感がないように家具をレイアウトした部屋を見て、「こりゃあスッキリしてええわ」と父も喜んでくれていた。
ところが、昨年末に父が足を骨折したことで、状況が変わってしまった。手術後のリハビリをがんばり、めでたく退院した父は、部屋の中を伝い歩きができるまでに回復している。それでもまだまだ、骨折前のようには動けない。これまで何ともなかったことが、思わぬ危険を招くこともある。その一つが、家具の低さだった。
下の段の引き出しには、普段あまり使わないものを入れていたつもりだが、父はなぜか1日に何度も開け閉めしているらしい。落ち着きがない性格は、骨折しても変わらないようだ。その姿を目撃したスタッフの方が、前のめりになっている父を危なっかしいと思い、私に伝えてくださった。
言われてみれば、あー、そうか、そうだよね。足を痛めたあとの生活がどのようになるのか、私の想像力が足りなかった。父の暮らしぶりを間近で見ていたら気づけたかもしれないが、コロナ禍で面会が制限されていたこともあり、家具の低さにまでは思いが至らなかった。転倒する前に分かって、ほんとに助かったー。
教えてもらったその日のうちに、背の高いラックを買いに行き、問題の家具と取り替えた。下の段は使えないようにして、必要なものはすべて前のめりにならなくても手の届く位置に収納した。どこに何が置いてあるかは父に説明しておいたので、迷うことはないと思うけれど・・・。
実は、その直後にまた、コロナ対策で面会が全面禁止になってしまった。家具の取り替え大作戦は、ぎりぎりセーフだったのだ。父に直接会って使い心地を確かめたかったけれど、叶わないまま緊急事態宣言も発令された。
たかが家具。されど家具。コケやすくなっている父の身になって、どんなところがネックになりそうか、考えはじめたらキリがない。今のところ問題はないようだが、面会できるようになったら、気になっている家具はすべて高さをチェックしてみようと思う。
何を訊ねても「大丈夫じゃ。これで十分じゃ」と答える父の本音を引き出すには、顔を見て雑談をしながら探るしかないのである。
【次回更新 その47】
2021年7月3週目(7月12日~16日)予定
投稿者プロフィール
- 広島市在住。コピーライター、ラジオ番組の放送作家。広告制作を経てフリーランスに。備えあればと思い立ち、介護食士やホームヘルパーなどの資格を取得。座右の銘は「自分のきげんは自分でとろう」
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