アウトサイドからこんにちは!

#19 2019.04.10

枯れない盆栽

まだ世の中に知られていない表現や作品を発掘する日本唯一の
アウトサイダー・キュレーター櫛野展正(くしの・のぶまさ)によるコラム。
今回は、立派な盆栽をつくる玉城秀一さんを取材しました。
◎東京ドームシティで開催中の大展覧会「櫛野展正のアウトサイド・ジャパン展」の招待券を5名にプレゼントします。最後までお読みください!

沖縄県那覇市 玉城秀一(たましろ・ひでいち)

スーパーの奥に並ぶ盆栽

「店のおじさんが不思議な盆栽をつくってたんですよ!」

買い出しから戻ってきた男性が興奮気味に教えてくれた。ちょうど美術家の中ザワヒデキさんが代表を務める人工知能美学芸術研究会(AI美芸研)のシンポジウムで沖縄に滞在していた夜のことだ。彼の話に興味が湧いた僕たちは、ぞろぞろと近くのスーパーへ歩みを進めた。真っ暗な夜道の中で、煌々と明かりが灯った場所にたどり着いた。それは那覇市内にある個人商店で、駄菓子から日用雑貨までさまざまな品が雑多に並ぶ店の奥に、たくさんの「盆栽」はあった。一見すると、どこにでもあるような盆栽だが、何かがおかしい。目を凝らしてみると、アイスクリームのヘラにはマジックで「月乃宿」「七曲」などの名前がつけられており、それは全てニセモノの素材を使ってつくられた「盆栽」だったのだ。

 

 

 

「すべて室内用の盆栽で、こんなのは思いつきでつくったのさ」

声をかけてきたのが、このスーパーを営む作者の玉城秀一(たましろ・ひでいち)さんだ。玉城さんは、1948年に4人きょうだいの長男として久米島で生まれた。玉城さんの家族は、玉城さんが生まれてすぐ家族で糸満市へ転居。その後も玉城さんが5歳くらいから10歳くらいまでの間は、那覇市内で転居を繰り返した。一家が住んでいた家はいつも借家だったため、都市計画の立ち退きで転居を余儀なくされていたそうだ。

 

 

風来坊から経営者へ

玉城さんは高校卒業後、那覇市内の貿易会社に勤務したものの、肌に合わず半年で退職。当時の沖縄はまだアメリカ合衆国に統治されていた時代で、就職難のために本土へ働きにでる人が多く、玉城さんも友だちのツテを頼って熊本・名古屋・大阪・鹿児島と全国各地を転々としながらアルバイト生活に明け暮れた。「東京の赤羽にあった運送会社で長距離ドライバーの助手として、半年くらい家具を運んでたこともあるのさ。でも、定職に就くわけでもなく若さゆえの風来坊だったのさ」と当時を振り返る。

「昔は根性が悪くて、なんで他の国の言葉まで覚えなきゃいけないんだという反発心が強かったのさ。だから、英語の勉強を全然しなかったんだけど、次第に英語の必要性を感じるようになったわけさ」

 

 

そう語る玉城さんは、英語を身につけるために沖縄へ帰郷。ネイティブが教師を勤める専門学校に1年間通い、英語の勉強を開始した。朝から昼まではその専門学校へ通って英語を学び、夜は沖縄大学で経済を学ぶという勉強漬けの毎日。ところが、ある日、バスのストライキで学校までの足がなくなってしまったことで、大学を2年で中退し勉強もやめてしまった。20歳になっても定職に就くという気持ちは持てないでいた玉城さんだったが、魚屋の仲買人をしていた知人に頼まれて、そこで運転手として5年間勤務した。知人のマグロの買付けなどによく同行していたようだ。

 

 

「そのあと、当時はバブル期だったから家族経営の冷凍店を始めたのさ。親父と僕と弟3人で、よく離島へ配達に行ってたんだけど、大手スーパーなどができて、僕ら零細企業は潰れてしまったわけなのさ」

やがて両親が他界。友だちの店を引き継ぐ形で、30歳を過ぎてから現在のスーパーの店舗経営を任されるようになった。

そんな玉城さんが「盆栽」制作を始めたのは、いまから2年前の2017年2月のこと。いつも買い物に行っている100円ショップに並べられていた造花の葉を見たことで盆栽制作を思いつき、仕事の合間に制作に取り掛かるようになった。

 

 

70歳を過ぎて増す深み

「別に盆栽に興味があったわけじゃなくて、普通の盆栽だと何百万何千万とお金が掛かるけど、これなら数百円で好きなようにつくることができるわけさ。70歳を機に、色々なものが衰えてボケっとする時間が多くなるから、気分転換にやってるだけさ。『何のために』と聞かれたら、ただの自己満足でしかないのさ」

制作方法は、最初にプラスチック製の鉢皿の大きさに合わせて木材を打ち込んでいき土台を作成。「盆栽」の幹の部分は、針金にペットボトルを巻きつけ、端切れなどを束ねて自由に形を造作していく。ときには漆喰で固めることもあるし、松ぼっくりのカサを貼り付けることもある。枝を差し込むために幹にドリルで穴を開けたり釘を打ち込んだりすることもあるようだ。「だんだんレベルが上がってくるわけさ」と語るように、常にその制作スタイルは変化し続けている。そして出来上がった「盆栽」はテレビの上などに置いて毎日眺めるようにしている。そうすると、次第に「もう少しこうしたほうがいいな」という疑問がふつふつと湧きでてくる。

 

 

「そのとき初めて、この木に『よっしゃ』っていう覚醒が生まれて、さらに深みがでてくるわけさ」と玉城さんはその気持ちを独特の言い回しで表現する。そうした制作スタイルを【『盆栽』と対話する】という言葉で説明してくれた。玉城さんのこうした姿勢は、世間一般で「芸術家」と呼ばれる人たちが「作品」に向き合う姿と酷似している。つくりながら作品に教わっている、いや「作品の力で、玉城さんはつくらされている」と言って良いかも知れない。

 

 

玉城さんは100円ショップで購入した絵の具を塗布したり松の造花や水槽用の水草などを取り付けたりして、仕事の合間を利用して2〜3日で「盆栽」を制作している。しかし、その後も「対話」を繰り返すため、本当の意味で完成するまでには半年から1年ほど掛かるそうだ。これまで50体以上を制作し、その多くは知人に譲ったり売却したりしてきた。販売価格もひとつ1万円だったり5000円だったりと、そのときの気分次第。全て安価な材料を使用しており、完成後には形を見て、アイスクリーム用の木製ヘラを差し込んで名付けを行っていく。そうした一連の行為は、まるで高貴な盆栽世界へ反旗を翻すかのようで、なんとも痛快だ。

 

 

「使ってる『松の葉』は水草用の水槽に入れるものなんだけど、100円ショップにもう売ってないわけさ。蛍光色で光るような不自然な葉っぱしか売っていないから、いまは仕方なく上から絵の具を塗ってんのさ」

 

 

まるでホンモノに挑戦するような玉城さんのニセモノの「盆栽」は、さまざまな材料を取り込み独自の進化を遂げている。玉城さんのその豊かな創造性は枯れるどころか、どんどん花開いているようだ。玉城さんが、今後このニセモノをどんな創意工夫で発展させていくのか、僕は楽しみでならない。そして齢70を迎えたとき、僕は一体なにを創造するのだろうか。年をとるのも、ちょっぴり楽しみになってきた。

 

 

 

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profile

櫛野展正(くしの のぶまさ)

文・撮影
櫛野展正(くしの のぶまさ)
1976年生まれ。広島県在住。
2000年より知的障害者福祉施設職員として働きながら、
広島県福山市鞆の浦にある「鞆の津ミュージアム」 でキュレーターを担当。
2016年4月よりアウトサイダー・アート専門ギャラリー「クシノテラス」オープンのため独立。
社会の周縁で表現を行う人たちに焦点を当て、全国各地の取材を続けている。

kushiterra

住所:広島県福山市花園町2-5-20
URL:http://kushiterra.com

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