認知症介護で家族の気持ちはどう変わる?【実例】5つの介護疲れを癒す方法

認知症

道に迷ったり、薬の管理ができなくなった認知症状のある人、もしくはそれ以上の認知症状のある人のうち、介護を受けたり支障がありながらも在宅で生活している人の割合は、約140万人にのぼります

家族が認知症になると、介護している家族の気持ちも大きく変化します。

もともとは仲が良かった家族なのに、相手が認知症だとわかっていながら、つい「さっきも言ったでしょう!」とか「いい加減にしてちょうだい!」とか、「なぜそんなことをするの?」とか…険しい声で応答してしまう。どうしてもイライラしたり腹が立ったりして、そんな自分に落ち込んだり。

認知症の人の毎日の見守りや介護は、介護者だけでなくそのほかの家族にかかる負担は大きいものがあり、介護離職や介護うつなどを引き起こす要因にもなるため、大きな社会問題のひとつです。

少しでもそんなあなたのストレスが解消できるよう、実際に認知症の家族を介護している方の実例とともに、元気を取り戻す方法をまとめました。

家族の認知症介護で気持ちはどう変わる?

家族が認知症になってしまうと、本人はもちろん、家族も大きなショックを受けます。これからどんな変化が起こってくるのか、そのうち自分たちのこともわからなくなってしまうのではないかという不安や戸惑いでパニックになってしまうのです。

「朝から晩まで同じことを繰り返す」、「夜中に起き出して探し物をする」、「失禁して隠す」、「介護者に暴言や暴行をする」、「外出したがる」などの様々な症状があるため、病気だとわかってはいても回数が増えてくると対応しきれなくなり、介護者は疲れ果ててしまいます。認知症の症状が進行していく家族に対して「なぜ私がこんな辛い思いをしなければならないのか」といった絶望感や苛立ちを感じ、心身ともに疲弊していきます。

徐々に忘れることが増えていき、家族としては「寂しさ」も感じるでしょう。

親が認知症によって要介護状態になってしまった筆者の友人は、不安や悲しさとともに心細さや情けなさも相まって「自分ではどうしようもない」と感じたと話していました。

「困った」「どうしよう」「誰か助けて」「こんなはずじゃなかった」

家族間の協力や近所や地域の助けがほしくても、家族が認知症であることを知られたくないという気持ちから、近所や地域との交流が薄れ、ひとりで抱え込んでしまう人も多くいます。
なかなかオープンにできない、人に頼りにくい、ついつい頑張ってしまう、それが積み重なって大きな疲れとなっていくのです。

認知症の家族を介護している人たちの話から…2つの事例 

ここでは、実際に認知症の家族を介護していた人たちの2つの話しをします。

よく聞く周辺症状ですが、介護者にとっては本当に困る症状で、この症状があると介護保険のサービスも使いにくくなることもあります。

事例1 お風呂が怖くて暴れる母

介護度3、理解力の低下で意思の疎通が難しいが、他は自立。お風呂をとても嫌がる母を在宅介護をしていたのは娘さんでした。以前は、認知症の症状がありながらもデイサービスや訪問介護のヘルパーや娘さんに介助されながら入浴していたのに、徐々に入浴を嫌がるようになり、最終的には脱衣所で暴れる・悲鳴や大声を出す・介護者に噛みつく・しがみつくなどの行為が現れ、事業所から「双方に危険」「他の利用者に影響が出る」と負担がられ始めました。娘が介助しても変わりはありません。失禁もあり、食事も自力で食べることができるけれど食べこぼしがあるため入浴は必要です。娘さんは困り果てていました。

「なぜ、お風呂を嫌がるのか」

  • いつからそれが始まったか?
  • どこのお風呂場でも同じか?
  • 異性が入浴介助に入ったことがあるか?
  • どの瞬間から嫌がりだすか?
  • 時間に追われて無理に衣服を脱がせたことがないか?
  • 入浴中に介助者が大声を出したり慌てたりしたことはないか?

思い出してみれば、時間や人手の兼ね合いもあって脱ぎ着に時間をかけられなくなった(急かしてしまったり、声掛けが不十分であったり、本人の行動を待てなかったり)頃から始まったそうです。嫌がりだすのはどこの脱衣所でも同じでした。以前に入浴中に滑りそうになった利用者がいて大騒ぎになったことがあった、など原因になりそうなことも分かりました。

娘さんも「お風呂を嫌がりだしてから、母を怒鳴ったり叱りつけたり大声を出してお風呂に入れてた。どんどんお風呂が怖くなったのかもしれない…」と話されました。

本人がお風呂が楽しい、ゆっくりできる、気持ちがいいと思ってくれるためにどうしたら良いか。娘さんと一緒に温泉気分で入る、アヒルのおもちゃとかカプセル入浴剤を使ってお風呂が楽しくなる工夫をする、下着を付けたまま入浴する、手浴足浴から始める…。

まず、訪問介護で娘さんと手浴足浴から始めて、徐々に段階を上げていきました。自宅で娘さんと入浴が出来るようになるのに一番功を奏したのは音が出るアヒルのおもちゃでした。自宅で入浴するときは脱衣所からアヒルを連れていき、デイサービスではたくさんのアヒルをぷかぷか湯船に浮かせてほかの利用者と遊びながら入浴します。

かなりの時間と努力が必要でしたが、今はお風呂で「気持ちイイね」と言ってくれるようになりました。「在宅の介護ができるのもあと少しかな」と寂しそうに娘さんは話しますが、「まだ母が笑ってくれるのが嬉しくて続けられる」とも言われています。

事例2 一人で出かけて帰れなくなる父

要介護3、食事や日常生活はほぼ自立しているが、認知機能の低下が著しく会話は続きません。主に同居の妻が介護しているますが、近所に娘さんが住んでおり仕事が休みの時は介護の補助をしています。

夕方になると「帰る」と言って外に出てしまい結構遠くまで徒歩で歩きます。ドアに鍵をかけても自分で開けることができます。高速道路を歩いたり、人の車に乗り込んだり、道の真ん中で座り込んだりして警察に送って貰うこともありました。デイサービスや短期入所は単発では受け入れしてもらえるけれど、連続や定期利用になって慣れてしまうとやはり出て行くのであまり使える状態ではありません。妻や娘は大変疲労していました。

夕方に出かけたくなる理由は、元気なころからの夕方の散歩や庭の水撒き、近所の人との将棋会などのルーティンワークの記憶でした。「何かする事があった」のソワソワ感が行動に出たのかもしれない、ということが家族との話で分かりました。

こんな場合にまず行うことは、安全の確保です。出かけたいと思う認知症の人には理由があります。出かけることを止めることはとても難しいので、出かけても安全な手立てが必要です。近所の人たち、地域の介護事業所、警察、近隣のお店、行きつけだった将棋会館、昔の職場。認知症の人は地域全体で見守らないと家族だけでは無理です。妻も娘さんも非常に疲弊していたので、周りの協力を得られるのならばと周知に同意してくれました。地域の事業所は送迎時に本人を見かけると連絡を入れてくれるようになりました。

本人が確認しやすいように、目立つキャップを被って貰ったり、事故防止のために反射板を靴やシャツに縫い込んだり、もちろんGPSも付けてもらいました。夕方の外出時に出会った人たちが挨拶してくれることが、本人は嬉しかったようだと家族が話してくれました。

最終的には入院になりましたが、家族はこの一時期、満足と安堵を感じたと話してくれました。

その他にも、テレビのリモコンで認知症の妻の頭を叩く、仕事に出かける最中は家中にペット用のシートを引いて親をオムツにしている、デイサービスに持参の着替え等が洗濯もせずずっとそのままになっている、認知症の親の年金を自分の生活費に充てている、そんな話が地域のケアマネージャーや施設には結構入ってきます。

辛かったり、悲しかったり、こんな親を見たくない・信じたくないという気持ちもよく聞きました。

でも、「認知症の家族と一緒に過ごした期間は大変だったけど、みんなでよくやったと思う」と、どの介護者も言われます。

やはりそこには、周りの手助けや協力、知恵の出し合いがとても大事なんだと私は思います。

介護疲れを軽減する方法

介護疲れは、その要因を減らすことで軽減が望めます。介護保険でカバーできること・介護保険ではできないこと・費用の軽減につながりやすい行政サービスなど、方法をいくつか簡単に解説します。

介護保険サービス、介護保険外サービス、行政サービスの3つの高齢者支援サービスを上手に組み合わせて、チームで介護の負担を軽減しましょう。

介護保険サービス

公的介護保険の支給限度額を考慮しながら、ケアマネジャーに依頼して必要な介護サービスを組んでもらいます。

その時、介護のどの部分を家族が行い、どの部分をプロに任せたいかを明確にすることがポイントです。

介護保険外サービス

同居家族がいる場合の掃除、洗濯、買い物、調理などの日常生活援助。リハビリ目的でない散歩、旅行の付き添いなど、公的介護保険では提供しないサービスは、介護保険外サービスとして利用できます。

行政サービス

各市区町村には、独自の高齢者支援サービスがあります。代表的なものが「紙おむつ助成」です。

市区町村のホームページや地域包括支援センターなどで、どのようなサービスがあるかをチェックしてみてください。

介護スキルを身につける

介護のスキルは直接介護に関係してくるほかにコミュニケーション力のアップにつながります。認知症の人とどのように接したら良いか、どんな症状がどの段階で現れてくるか、そんなときの対処法はどうするか?とても大事なことです。

在宅介護の限界を見極めることも重要なので、施設の知識も必要です。

介護全般の知識があれば、介護保険を利用する時にも、ケアマネージャーや事業所のスタッフと対策を練る時にも役に立ちます。

心の負担が軽くなる5つの元気が出る方法

介護者には、どうしても心への負担がつきまとい、ネガティブな感情が生まれやすくなります。

その感情を、元気が出る方向にチェンジする方法を5つお伝えします。

抱え込まない

認知症のケアは決して1人ではできないことを知りましょう。
自分で考えることは重要ですが、困ったら小さなことでも誰かに相談してください。
「人に助けを求めるのは面倒だ」「自分のやり方がいいんだ」と思い込まず、手伝ってもらいましょう。

他の人の視点が入ることで、認知症の家族に対する気持ちが楽になる」と体験家族は口を揃えます。 

自分のための時間を作る

認知症の人は、認知力こそ低下していますが、介護者の気持ちには敏感な場合があります。
介護保険などを利用して介護の時間を減らしたり、趣味や自分が楽しいことに時間を避ける余裕をもちましょう。                         がんばり過ぎず、十分な睡眠と休息を取り、自分のことを大事にすることは、心の安定にとても大切です。

他の人と比べない

認知症は千差万別。原因疾患も、脳のどこに障害を受けるかも、その程度もそれぞれ違います。
比べてしまうと「どうしてお母さんは…」「なぜ私だけこんなことに…」といったネガティブな考え方になってしまいます。ありのままの家族と楽しく過ごすことが一番よいことだと思います。

不満や辛さなどの弱音を吐く

「介護する人は、いつも明るくいなければならない」などと思って、自分の辛い気持ちに気づかぬふりをしてしまう人もいます。
しかし、実際に介護をする中で生まれる辛い気持ちは、否定されるべき感情ではありません。
悲しかったり辛かったりする自分の思いを、聴いてくれる場所を知っておきましょう。同じ体験を持つ人は皆同じような気持ちを実感しています。

「そうそう」「大変だよね~」「自分もそうだった」などと聞いたり話したりすることは、今の自分を認められる手助けとなります。

いつかは終わる

認知症の介護は「先が見えない」「終わりがない」と思いがちです。だけど、徘徊をしてしまう人は足の機能が衰えれば、徘徊ができなくなります。また、「もの盗られ妄想」は、症状が進行すればなくなっていきます。
寂しいけれど、認知症の介護は「終わりが来る」のです。
介護で感じる苦しみは「いつか終わるもの」と考えることは、今現在のストレスの緩和に役立つかもしれません。

心が楽になる書籍もあります。

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きっと少し楽になりますよ。

まとめ 

身近な人には、『悲しい』『さみしい』『つらい』といった気持ちを、素直に言えないことがあるかもしれません。

でも、そんなときこそ気持ちを言葉にすることをおすすめします。

力を抜いて、いろいろな人の力を借りて自分自身が笑顔になりましょう。

介護は誰にとっても無関係のことではないのです。

ここにあげた2つの家族も「最初は自分の親がこんな風になるとは思ってもいなかった」と話していました。それでも、他の家族や近所の人や介護事業所の職員達と一緒に頑張って介護をした結果、「親は段々といろんなことがわからなくなってもうダメかと何度も思ったけど、なんとか皆のおかげでやり切ったと思う。『最高のケアが出来たとは思わないけど、私たちは良く頑張った』と自分なりに思うことが出来るようになりました。」と話します。

キーワードは「みんなで一緒に」です。

同じ体験をしている方に向けて「つぶやいて」みませんか?

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投稿者プロフィール

Mrs.マープル
Mrs.マープル
介護福祉士・主任介護支援専門員・認知症ケア専門士・社会福祉士・衛生管理者・特別養護老人ホーム施設長・社会福祉法人本部長経験と、福祉業界で約25年勤務。現在は認知症グループホームでアドバイザー兼Webライター。

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