一人暮らしの親が認知症になったら|対処法と在宅介護の限界点を知ろう

認知症

「一人暮らしの親が認知症になってしまったら、どう対処していけばいい?」「親の一人暮らしが出来る限界をどのように見極める?」

この記事では、一人暮らしの認知症の人に多い問題や、トラブルの解決法、一人暮らしの限界の見極め方、併せて施設入居についてどう考えるか、などについて解説していきます。                

一人暮らしの親の異変に気付いた時や認知症だと発覚した時の対策として、お役立てください。

認知症の親の一人暮らしにあるリスクと解決策

一人暮らしの親が認知症と診断されたら、リスクを回避しながら見守りができる体制を整えることが大切です。

まずは自宅で通院や介護サービスを利用しながら様子を見るとしたら、以下のリスクに備えておきましょう。

火の不始末
物忘れや注意力低下で発生する最大のリスクは「火の不始末」による火災です。
良くある火事の原因に、コンロの切り忘れ、タバコの不始末、洗濯物をこたつやヒーターで乾燥させる、暖房器具の不始末などがあります。認知症でなくても起きる可能性はありますが、その危険性がより高くなると考えた方が良いでしょう。火災が発生すると、本人はもちろん周囲の人たちにも被害が及んでしまう可能性もあります。
火災を起こさないためには、次のような対策があります。

  • コンロはガスからIHに変更する
  • 暖房はエアコンに切り替える
  • 寝たばこは火事の原因の最たるものなので灰皿に水を張ったり、就寝時のルーティンから煙草を外していくよう話し合う
  • 介護保険サービスを利用して一人の時間を減らす

就寝時に電話をして、火元の確認を取ったり、ご近所の人や民生委員さんなどに事情を伝えて、日ごろからの声かけをお願いするなども有効です。

【ケース1】住み慣れた家でなんとか一人暮らしをしていた視覚障害をお持ちのご利用者が、ポットの空焚きでボヤ騒ぎを起こしてしまいました。非常に気持ちの強い人でしたので、週に1回通っていた娘さんも変化に気づけなかったようです。その後の検査で「アルツハイマー型認知症」と診断されました。火の不始末は、一人暮らしには大きな壁になります。この件も一人暮らしは困難と判定されてサービス付き高齢者住宅への転居となりました。

しっかりした人ほど認知症の進行が分かりにくく、気づいたときには大事に至ることがあります。ちょっとした変化に気づけるように連絡は密にしておきましょう。

外出時の事故や行方不明、病気
外出したまま家に帰れなくなってしまうなど、行方不明や交通事故等に遭うリスクも高くなります。
徘徊は前触れなく突然起こると言われており、季節によっては凍死や熱中症のリスクもある心配な行動です。
徘徊の心配がある場合には、認知症徘徊感知機器GPSが内蔵された靴などを活用するとよいでしょう。
地域の人と連携して声掛けや見守りをしてもらうのも、対策のひとつです。

食生活の乱れ
認知症の一人暮らしでは、料理ができなくなったり、1日何食も食べたり、反対に何日も食べていなかったり、と食事に関して様々な問題が起こりがちです。

栄養バランスが偏って健康状態の悪化や感染症などのリスクも高くなります。                   そんな場合は、お弁当を配達してもらう配食サービス訪問介護で食事の支援をして貰ったり、デイサービスで一日に一度はきちんと食事がとれるように介護保険サービスの利用を検討しましょう。

【ケース2】冷蔵庫の中が空であったり、古いものや腐ったもの、良く分からないものが入っていた場合は、食事だけではなく衛生面からご近所トラブルにも発展しかねません。配食サービスのお弁当やスーパーで買ったお惣菜を冷蔵庫一杯貯めていた利用者がいました。訪問介護のヘルパーさんが「これ、あなた食べる?」と出された物で気づいたのですが、冷蔵庫の中にはテレビのリモコンや電話機まで入っていたそうです。片づけても次の訪問日には同じ状態に戻っているし、「これは食べられないから処分しましょうね」と片づけたヘルパーさんに「私の食べ物をあの人が全部盗った」と苦情が出ることもありました。ご家族は、離れて暮らす息子さんだけで同居は無理ということでしたので、訪問介護の回数を増やして出来るだけ早い段階でのグループホームの入居を待つこととなりました。

衛生トラブル
認知症になると、着替えをしない、入浴を嫌がる、排泄の失敗を隠すなどがよくあります。
デイサービスや訪問介護などを利用して、定期的に着替えや入浴を行える環境を整えましょう。
また、便秘や下痢は、体調の不良から認知症の諸症状を増悪させてしまうことがありますので、服薬管理が重要です。

服薬管理の不備
一人暮らしの認知症患者で困難になるのが服薬管理です。
持病を抱えている場合、習慣的に服薬ができなくなったり、過剰に服薬をしてしまったりするリスクが発生します。
飲む時間ごとに容器に分ける、お薬カレンダーを活用するなどで、飲んだかどうかを一目で確認できます。医師に相談して複数の薬をひとつの袋にまとめる一包化も大変有効です。
また、薬剤師による訪問指導や訪問看護などの介護保険サービスを利用して、きちんと管理できているかを定期的に確認できる環境を整えておきましょう。

介護保険外で自費のサービスで受けられる看護師サービスもあります。参考にしてください。

金銭管理トラブル
記憶力・判断力の低下により、金銭管理が正常にできなくなってしまうことがあります。
同じものをいくつも買ってしまったり、不必要な契約を結んでしまうなど、お金に関するトラブルが発生しやすくなります。
下記のような状態があれば要注意です。

  • 新聞を何社も契約している
  • 不要な物品が増えている
  • 健康食品やサプリメントがいくつもある

不必要な契約については、クーリングオフ制度が活用できます。消費生活センターや警察などに相談してみましょう。
通信販売は、解約しても購入依頼の電話がかかってくることがありますので、会話を自動録音できる電話や、登録した番号以外の着信音が鳴らない電話にしておくことをおすすめします。
光熱費等の支払いを忘れてガスや電気が止まると生活に大きな影響を与えます。光熱費等は口座引き落としにしておき、口座残高を把握できるようにしておくとよいでしょう。

【ケース3】ちなみに、一人暮らしの利用者が健康食品を何万円以上も購入して隠していた、という事例は実に数多くあります。本人は購入したことを忘れてしまうので同じ商品が山積みになっていたり、そのような人は業者からの勧誘も多いため被害も大きくなりやすくなります。まずは、家族と契約解除に動きますが、再発防止の策を立てることが必要です。その時は、早急にご利用者本人と離れて暮らすご家族と話して、契約に必要な通帳や印鑑などの金銭の保管管理のために権利擁護事業の利用を開始しました。(実は、社協も含めて被害妄想や物盗られ妄想にずいぶん付き合いましたが…)

将来に備えた任意後見制度や成年後見制度についても検討しておくと安心ですよ。

また、最近はオレオレ詐欺などの事件も多発しています。高齢者はそれでなくてもターゲットにされていますので、定期的に連絡をして声を聞かせたり、近況を話し合うことが大事です。認知症であったとしても親は子どもをいつも心にかけてくれているものです。

ご近所トラブル
認知症が原因のご近所トラブルとしてよく聞かれるのが「ゴミ問題」です。
認知症の症状が進むとゴミの分別ができなくなります。ゴミ出しの曜日や時間を頻繁に間違えることが多くなり、その結果ゴミをため込んでしまう高齢者も多いです。
ゴミ問題が起きたときには、訪問介護を利用して捨ててもらう方法があります。自治体で生活支援として対応している場合もあるので、お住まいの自治体やケアマネージャーに相談してみましょう。

自治体の生活支援は、地域ごとに特色ある支援を提供しています。ゴミ出し・電球の交換・不燃物の処理・話し相手・在不在の見守り・買い物支援など、要介護や要支援でなくても使うことが出来る場合があるので、一度包括支援センターや自治体の高齢者支援担当課へ詳しく尋ねてみることをお勧めします。

認知症の一人暮らしで頼りになるサービスは?

一人暮らしの親の安心・安全を支えるには、家族の努力だけでは難しいことがあります。
しかし、同居をすることで優しく対応できなくなってしまう、介護離職をすることになったり、場合によっては介護うつになってしまうということもあります。
民間企業や行政が提供するサービスや支援を、上手に活用し、自分自身を守ることも同時に考えましょう。

介護サービス(在宅・通所)

認知症などで介護が必要な方向けの介護サービスは非常に多くあります。

訪問介護・訪問看護などの在宅介護サービス、デイサービス・ショートステイなどの通所介護サービスなど、症状や要介護度に応じて利用するサービスを検討しましょう。

認知症に特化した通所サービスもありますし、通所・訪問・短期入所が一体となった小規模多機能型施設というのもあります。

こうしたサービスをどのように組み合わせたらよいか、どういったサービスを使うことができるのかは、介護認定、ケアプランによって異なります。介護保険制度のサービスを受けるには、まず、要介護認定の調査・判定が必要となるため、利用を希望する場合は近くの地域包括支援センターや自治体窓口に問い合わせをしましょう
地域包括支援センターでは、認知症に関する様々な問題についても相談に乗ってくれますよ。活用してくださいね。

見守りサービス

民間企業や自治体が提供している見守りサービスや郵便局員郵便局員や電気・水道の検針員による安否確認サービスを利用するのもひとつの方法です。宅配の牛乳や乳酸飲料の配達員さんが見守りサービスをしてくれる場合もあります。
これらは、公的サービスではないので利用者の負担が発生しますが、一つの選択肢として検討する価値はあるでしょう。
見守りのアプリやカメラなども多くあります。何かあった際にはすぐに駆け付けてくれるサービスが付いたものもありますので、離れて暮らす場合は安心ですね。

自治体による一人暮らし支援サービス

各自治体でも独自の一人暮らし高齢者を支援するサービスを提供しています。

安否確認・外出支援・金銭管理など、安心して暮らす上で欠かせないさまざまなサービスが利用できます

要介護者でなくても受けられるものもありますし、軽度であれば認知症の人自身が役割をもって社会参加ができるようなサービスもあります。

各自治体によって行っているサービスが異なりますので、お住まいの自治体のホームページをチェックしてみてください。

一人暮らしの限界点、見極めのポイントは?

認知症の一人暮らしの場合、本人や家族が気づかないまま症状が進行してしまうことが少なくありません。
以下のような状況になってきたら、一人暮らしが限界だと考えましょう。

  1. 徘徊の頻度が急激に増えて警察に保護されている
  2. 体調の悪化が増えてきた
  3. 近所でトラブルが頻発する
  4. 介護サービスの拒否が増えた
  5. 会話が成り立たなくなってきた

「今後の見通しとしてどのように考えているのか」を日ごろから親戚や家族間、ケアマネージャー等と話し合っておきましょう。施設の入所もすぐできるわけではないので、「一人暮らしはもう無理か…」と思った時、どんな施設が良いのか、親に合ってるのはどんなサービスを持つ施設か、自分たちは施設のどのようなサービスに期待するのかなどケアマネージャーや施設の担当者に話が出来るように考えておきましょう。

一人暮らしが限界になったらどう対処する?

徘徊や体調の悪化など、一人暮らしは限界だと感じたら、どう対処していけばいいでしょうか。

家族と同居を考える場合

一人暮らしが難しいと判断した場合、家族と同居するか、施設に入所するかの2択が基本です。家族との同居で最も大きなメリットは、本人の様子に目が行き届くようになり、身の回りの世話をできるようになり、認知症の進行に早めに気づけたり、さまざまなリスクを防ぐことができることです。また、住み慣れた場所で暮らし続けることは、本人にとっても、不安感や寂しさが和らぎます。
しかし、同居する家族にとっては、肉体的なものはもちろん、精神的にもとても大きな負担になります。

施設に入居を考える場合

同居が難しい場合には、老人ホームやグループホームへの入所があります。
本人の自宅近くの施設に入居すれば、なじみのある地域で暮らし続けられるメリットがあります。施設であれば専門スタッフから介護を受けられるというのも安心です。
しかし、老人ホームの入居は、一人で暮らしてきた高齢者にとっては大きな環境変化となり、ストレスにもなりえます。できるだけ本人が安心して過ごせるように徐々に環境を変える工夫も必要かもしれません。。

施設入居を拒否する場合

一人暮らしが限界、在宅での介護は無理だと判断しても、本人が施設入居を拒否するケースもあります。

そうした場合、介護保険を利用しながら今後の施設入居の準備段階としてショートステイの利用頻度を上げていく小規模多機能型施設を利用して徐々に通所・訪問から泊りへと移行していくなどの移行期間を設けていくのも一つの方法です。

誰しも、長く住んだ自宅を離れることはとても辛く、ストレスのかかることです。ケアマネージャーなどに頼りながら、本人の気持ちに寄り添って考えることが大切です。

マンガでわかる!認知症の人が見ている世界2

認知症の人が見ている世界と、周囲の家族や介護者が見ている世界との違いをマンガで克明に描き、困った言動への具体的な対応策を紹介していきます。
本書を読んで認知症の人が見ている世界を理解することにより、認知症の人への適切な寄り添い方を知り、毎日の介護の負担を軽減する一助としてください。

まとめ|一人暮らしの認知症の親をもつ家族の皆さんへ

ここまで紹介したような様々なサービスや地域の見守りを導入したとしても、24時間365日を完全に見守ることは難しいでしょう。

愛情が深くても介護できないケースがあることを頭において、自分自身や家族の生活を守ることも考えましょう。

共倒れになってしまうと、結局、認知症の親が放置されてしまうことになってしまうことになります。

本人が安全に暮らせるようにするのはもちろん、家族の生活も守りながら適切なサービスを選択していくことが大切です。

「認知症の人」への接し方のきほん

「困った行動」を場面ごとに紹介し、その背景にある様々な原因をひも解きながら、一人ひとりの感情を理解して、その人に本当に合った接し方を見つけるための方法を具体的に解説しています。
また、「認知症介護における家族支援」を専門とし、様々な家族を見てきた著者だから伝えることができる「認知症介護の心得」や「頼りになる相談先の見つけ方」などの実践的なノウハウも盛り込みました。
はじめて認知症介護をする方はもちろんのこと、「本やインターネットに書いてある通りにやってみたけれど上手くいかなかった」という人にも、ぜひ読んでいただきたい一冊です。

投稿者プロフィール

Mrs.マープル
Mrs.マープル
介護福祉士・主任介護支援専門員・認知症ケア専門士・社会福祉士・衛生管理者・特別養護老人ホーム施設長・社会福祉法人本部長経験と、福祉業界で約25年勤務。現在は認知症グループホームでアドバイザー兼Webライター。

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